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第29話【番外編】トランシーバーってこう使え!

_トランシーバーは、防災時において非常に役立つツールの一つ。ご家庭にひとつあると安心です。アチュウのトランシーバーは、おもちゃなのに本格的なモデルです。電波をしっかり受信でき、音声がクリアで高性能!_ 「で…、アチュウが描いてある方が表だから、ここが送信ボタンになる。喋る時は押しながら、終わったらボタンを離すOK?それで、話が終わったら、オーバーって言うんだぞ。オーバーって、こちらの話は終わりです、そちら喋ってください、どうぞって意味だから」 「了解です!マリカ上官!」 アチュウのキャラクターが描いてあるトランシーバーをマリカが買ってきた。ウルキへのプレゼントであるおもちゃだという。 だけどトランシーバーなんて、まだ赤ちゃんのウルキが使いこなせるものではない。マリカはおもちゃの対象年齢見てねぇな?とコウは呆れた。 しかし…おもちゃのトランシーバーなんて初めて見る。ちょっと面白そうではある。 実際に使えるのか遊んで確かめてみようぜ!ということになり、マリカとコウは王宮内で使い始めている。 そもそもトランシーバーなんてよくわからない。マリカに使い方を教えてもらう。 「じゃあ、ちょっとやってみようぜ。1kmから3km先まで離れてても声が届くって書いてある…おもちゃなのにすげえな」 「ラジャ!」 「...よし!わかった。じゃあ配置に着け。双眼鏡も忘れるな!」 コウの気分はスナイパーかスパイといったところだ。双眼鏡でターゲットを確認し、マリカ上官の指示を仰ぐことが任務だ。 マリカもようやくこの遊びにノッテきてくれている。二人はバラバラに離れ任務を開始した。 アチュウの鼻がボタンになっているトランシーバーは、そのボタンを押して喋る。話終わったらボタンを離すという単純なものである。 やり始めたら、面白いものでハマり始めていた。それに、離れていても声が聞こえるトランシーバーは楽しい。 「マリカ上官!自分は、玄関口に移動いたします!オーバー」 「わかった。コウ隊員、くれぐれも無理はするな」 話終わったらオーバーと言うのか…とワクワクしながら、トランシーバー片手に王宮内を動き回る。夜が更けて来たので王宮内に、人の気配はない。コツコツと歩く自分の靴の音だけが響いている。 マリカの職業である護衛とか、スナイパーとかスパイって、こんなことしてるのかと、ちょっと考えてみた。皆が寝静まった後も、護衛は交互に待機する時もある。静かな場所でひとりで任務を遂行することもあるんだろうと。 2階の玄関エントランスから外を双眼鏡で眺める。外は真っ暗だけど、光がある玄関や車寄せ辺りがハッキリと見えた。 「…ん?なんだ?」 双眼鏡の倍率を絞ると玄関前の車寄せに、見知らぬ赤い車が停車したのを確認した。 「マリカ上官、見知らぬ赤い車が車寄せに停車しました。あっ!車の中からロランが降りてきました。オーバー」 「こちらマリカ。コウ隊員、ロランって言ったか?赤い車は誰が運転している?俺もそっちの方に移動する。オーバー」 「なっ!な、な!見たことがない男性です!あ~ロランが笑っているのが確認できますぅ!オーバー!」 双眼鏡で確認しながら、トランシーバーで通信するのに二人は慣れてきた。それに、夜遅くこんな遊びを始めたが、面白くてやめられないでいるところに、ぴょこんとロランが現れたから、目が離せない。 ロランをターゲットとし追っていたら、見知らぬ男が登場し、俄然興味が出てきた。 「男に送ってもらったのかっ!全く、オーウェンさんは何をやってんだ!オーバー!」 「あああぁぁ!マリカ上官!西南西255度方向から刺客が現れましたぁぁ!オーウェンです!対象物までの距離は、後…数メートルといったところです!マリカ上官の位置からも確認ができますか?オーバー!!」 「俺はエントランス3階に来た。見える!見えている!なんでこのタイミングでオーウェンさん来た?すげえな、修羅場か?大丈夫か?オーバー」 「おっ!オーウェンがロランに気が付きました。ぬぁぁあ!鬼の形相で歩み寄っています。オーバー!」 「コウ隊員、そのままターゲットを見失わず、確認続けろ…うあっ!ロランに近寄り腕をつかんでいる!赤い車の男と勝負するのかっ?やれ、やってやれ!ロランを奪え!オーウェン...ん?話してる?おいおい、大丈夫かよ。心配だぜ。オーバー」 「マリカ上官...この距離から撃ちましょうか...一発やっちゃいましょう、赤い車。援護射撃頼みます。オーバー」 「待て!様子を見ようじゃないか。ここは慎重にいかないと取り返しがつかなくなる。しかし、コウ隊員、外に出れる準備はしておいてくれ。オーバー」 エントランスのガラス窓に張り付いて双眼鏡で見ている。恐らくひとつ上の階にいるマリカも同じ張り付きスタイルだろう。 双眼鏡で外の三人の動向を見ていると、赤い車の運転手は、車から外に出ることもなく、いくつかオーウェンと言葉を交わしていたようだった。 マリカが「修羅場になる!オーバァー!」と慌てていたが、そんなことはなく、赤い車はそのままブウーンと音を立て去っていった。 「ふう~、こちらマリカ…危なかったな。コウ隊員、あの男は何者か知ってるのか?つうか、オーウェンさん何やってんだよ。オーバー」 「こちらコウ。恐らく、ロランが最近外出しているのはあの男に会うためです。理由はわかりません!しかしながらぁぁ!毎晩ロランが出かけているのは確かです!オーバー」 「あ~、今後はオーウェンさんとロランの二人で何か喋ってる。何言ってるかわかんないよな?あ?あ〜、結構揉めてる?ん?ロランが背を向けて歩きだしましたぁぁ!俺たちの出番かもしれないぞ!オーバー」 「めっちゃ双眼鏡の倍率上げてます!ロランが怪訝な顔をしているのが確認できます!オーウェンはめちゃくちゃ焦っている感じです。マリカ上官、どうしましょう...俺たち、出ていきますか?うああーー!」 「どうした!コウ隊員!落ち着いてくれ!」 「オーウェンが背を向けて歩き出してしまいました!何をやってんだ!お前にそんな権利はないっつうの!あっ、でも、ロランが追いかけてます。ん?胸倉を掴んでます。ロランがオーウェンに掴みかかってます。ケンカか?おいっ...大丈夫かよ、こいつら。オーバー!」 「待て、コウ隊員。様子が...お?おおっ?顔が近い!これはっ!もしかして!なんだ!もしかすると!オォーバァー!」 「キターーー!キスした!二人がキッスしてる!身内のキスを見るのは気まずいけど、面白い。やったあ!オーウェン!いけぇー!やったれー!オォォーバァァー!」 「長い、、オーウェンさんキス長いって。これはやっとか?そういうことでしょうか?コウ隊員!バンザイでいいのでしょうかっ!どうなんでしょう!答えてください。オーバー」 「いいでしょう!バンザイでいいでしょう!ほら!二人で歩いて行きますよ。西南西255度方向に向かっています。オーウェンの自宅に向かっているのでしょう。オーバー」 「コウ隊員!見てください。手を繋いでおります。よかった...マジよかった。あの男、本当にどうかしてやろうかと思った...デリカシーないよな。明日になったら確認しよう。今日はそっとしておいてやろうぜ。オーバー」 「マリカ上官!任務完了です。本日の任務はこれにて終了でよろしいでしょうか!オーバー」 「よし、よくやった。部屋で落ち合おう」 数分後、二人のプライベートルームでマリカと落ち合った。 「トランシーバー面白かったな」 「だな。ウルキが大きくなったら遊べるな。その時もターゲットは、オーウェンさんにしようぜ」 「うん、それがいいよ。セブンティーン先輩とロランの尾行でもするか」 おもちゃのテレパシーは感度も抜群で使いやすい。ウルキが大きくなったらこれで遊ぼうと思う。 「しかし…トランシーバーは疲れるな。やっぱり俺らはテレパシーでいいよ」 「そうじゃん、マリカ!俺たちテレパシーあったじゃん!あ〜、忘れた。今、トランシーバーに夢中過ぎて、テレパシー使うの忘れてた」 「マジ?お前、本当に天然なとこあるな」 しかし、テレパシーでもトランシーバーでも会話してる内容は同じようなもんである。どうでもいい、くだらない話がほとんだ。 「俺らさ、テレパシーの取り扱い、上手くなれるかな…」 「どうだろう…トランシーバーと変わんねぇだろうな」 ゴロンとベッドに二人で横になる。明日は天気がいいと聞く。二人とも休みだから、久しぶりにドライブするか?とマリカに誘われていた。ドライブもいいけど、ベッドの中でゴロゴロとしたい気持ちもある。 「コウ…?明日さ、」 「あはは、多分、同じこと考えてるぜ?」 俺たち、相変わらずテレパシーの取り扱いが上手くない。 だけど、いつか役にたつ日はくるのかな。

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