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第30話 好きって使い方合ってる?
「あははは、やだぁ、コウ様!ウケる〜」
「だって、マリカがそう言うんだよぉ」
今日はオーウェンの家で、昼間からホームパーティをしている。集まるのはもちろんいつものメンバーだ。
今日はロランがこの前上手に作れたカレーを二人に披露していた。大きな鍋に目一杯作ったカレーは大好評で、もう既に食べ切っていた。
「…で?ロランは最近悩みはないのかよ」
「悩みですかぁ〜?うーん、ないですっ!」
「本当にぃ〜?セブンティーン先輩に言えない悩みがあれば聞くよ〜?」
コウはロランを可愛がっているのは見ていてよくわかる。可愛がって、そして心配もしているようだ。
ふざけたように「悩みは?」なんて聞いてるけど、ロランの本心はどうなんだろうって常に気にしているようである。
何をそんなに気にするんだ?と、以前聞いたことがあった。その時コウは、ロランがオーウェン相手に楽しそうにしている姿を見ると、自分も嬉しくなる。だから、それが続いてて欲しいから、色々と勝手に心配しちゃうんだと言っていた。
くっだらないことでロランが悲しんでたり、落ち込んでる姿は見たくない。ロランにはいつまでもウキウキ、うふふ、きゅるりーんってしていて欲しい。そして、オーウェンが幸せにしてあげて欲しいなと、コウに言われていた。
「悩みなんかないんじゃないか?毎日イチャイチャして、楽しいんだろ?」
マリカが冷蔵庫からビールを取り出して、ロランを見ずにそんなことを言う。
「え〜っ?そうですかぁ?イチャイチャしてるのかなぁ…そう見えますぅ?え〜っ...うふふ」
うふふと首を傾げて笑うロランと目が合う。そんな顔をされると、こちらも自然に笑顔になり、同じく首を傾げてしまう。
可愛らしい…と思っていると、横からマリカの視線を感じた。振り向くと目が合い、笑いを堪えながらビールを飲んでいた。憎ったらしい。
「…なんだよ、マリカ」
「いや〜、オーウェンさんの、うふふって笑顔はちょっと…めっちゃデレてますね」
「…うるせぇよ」
ロランにつられてしまったとはいえ、確かにデレっとしていたと自分でも思う。マリカの隣ではコウが堪えきれず、あはははと、爆笑していた。
「あーっ!でも!はーい!あります〜!」
ロランは思い出したように、手を「はーい!」と挙げている。
「悩みっていうか、教えて欲しいことがあるんです。あのね、コウ様、私の好きの使い方って合ってるんでしょうか?」
「好きの使い方?なんじゃそりゃ」
ロランは、好きの使い方をコウに訊ねている。それを聞いてマリカとオーウェンは「使い方?」と、意味がよくわからない。
「私、恋愛するのが初めてなのでわからないんです。わからないんだけど、私は好きの使い方が下手なんじゃないかなぁって思ってます。なので、みんなどうやって上達するのかなって」
ロラン曰く、好きの使い方は人それぞれだろうけど、自分は上手く使えていないと感じている。上手く使えればいいのにと、たまにもどかしくなるそうだ。
「そもそも、好きなんてのはさ、言葉で伝えるしか使い方はないんじゃないか?
だから上手い下手なんて、そんなのってないよ」
「それがね、コウ様!オーウェンさんは、すっごく上手なんです。だから…私も上手くなりたいなぁって」
ニコニコと笑いながらロランはそんなことを言い、オーウェンの方を向き「ねっ!」と言っている。オーウェンは、ロランになんて声をかけていいのかわからず、言葉が出ない。
「なに~っ!それは詳しく聞かないと!オーウェンが上手いって?じゃあさ、たとえばだよ、例えばオーウェンの上手な好きの使い方ってなに?それ教えてくれよ」
「いや、待てロラン。言えることだけでいいぞ?例えば、夜は...とかはいらないから」
ロランの質問に、コウとマリカはキッチン作業台に身を乗り出して聞いている。好きの使い方ってなんだろうと二人は興味津々だ。
ニヤニヤと笑い、話を掘り下げようと必死でいる。こういう時のコウやマリカは、悪ふざけをする傾向がある。
「お、おい、お前ら、やめろよ…」
何となく恥ずかしい。そんなことで褒められるなんて初めてである。それにロランが何を言うのかもわからない。なので、オーウェンはやめろって言っている。だけどそんなの誰一人として聞いていないから、会話は勝手に進んでいく。
「例えばですか?そうですね…私は癖でプーって膨れっ面になってしまうんですが、そんな時は頬を両手で包んで、この顔好きだよって言ってくれるんです。そう言われると、なーんか笑っちゃうんです。そうやって、上手く好きを使ってくれます」
言ってる…それはよーく確かに言ってることだ。だけど、プーってしてる顔が可愛くて好きなんだからしょうがない。頬が膨らんでると触れたくなるんだから、そう伝えているんだ。
「それにね…」と、ロランは身振り手振りを付けて続けていた。
ロランは以前オーウェンが言ったことを覚えているようで、思い出してはあれもこれもと二人に伝え始めている。
苦手なもの、好きなもの、嫌いなもの、大切なもの、ロランを少しずつ知れてると嬉しいってこと。
ロランの表情はいつも忙しいなって思い出すと、勝手に笑い出してしまうってこと。
それが見れている俺ってなんてラッキーなんだろうって思ってること。
そして、俺と一緒にこのまま笑って過ごしてくれればいいなぁって言ったこと。
「ねっ!オーウェンさんって上手いでしょ?こんなに好きって表現してくれるんです」
「うっわぁ~、セブンティーン先輩やる~。なるほどね、好きの使い方ってそういうことか」
ロランの話を聞いていて改めて気が付くことがある。
オーウェンの気持ちがストレートに伝わり、それを受け取ったロランがまっすぐ素直な言葉にして返してくる。その思いを聞き、じんわり嬉しく思った。
「そんなことより、直接言葉で、好きだって言われる方が嬉しいんじゃないか?」
いつの間にかビールを飲み干しているマリカが横から口をはさむ。
「オーウェンさんは、ちゃーんと好きだって言葉にもしてくれますから、もちろんそれも嬉しいですよ。だけど言葉だけじゃない好きがたくさんあって、それを表現してくれるんです。私は、こんな思いをするのは初めてです。オーウェンさんの好きが伝わると、胸がキューンってなるんです」
両手で胸を押さえてロランは言う。素直で嘘がなく純粋なロランの気持ちは嬉しい。
だけど、やっぱりちょっと照れくさい気もする。
「罪深い...オーウェンさん、相当罪深いですよ、これは。責任重大ですからね」
「そうだよ、セブンティーン先輩。こりゃ、大切にしないと~」
ヤイヤイと二人に言われ、そして冷やかされる。だが、冷やかされても嫌な気はしない。だって本当にそう思ってるんだし、なによりロランが嬉しそうにしているから、こちらも嬉しく思う。
「じゃあ、コウ帰るか。二人を見てると俺たちも二人っきりになりたくなるしな」
「そうだな、帰ろうぜ〜。お邪魔しましたっと。えっと、ロラン?その好きの使い方ってやつさ、それはセブンティーン先輩に聞けよ?上手なんだから、きっと使い方を教えてくれると思うよ」
コウはそう言って立ち上がり、早々に二人は帰ってしまった。
バタンとドアが閉まった後、くるりとロランが姿勢を変えオーウェンに向き直った。
「オーウェンさん…私、何か変なこと言いましたか?」
「なんで?なんでそう思う」
「だって、二人とも急に帰っちゃうから...」
下を向いて、ふーんとロランは言い、気にしているようであるから、オーウェンは可笑しくなり笑ってしまった。
「あははは、そんなこと気にするなよ?あいつらは、早く二人になりたくて帰っただけなんだから」
「そうでしょうか…でも、楽しくお話してたのに」
「そんな顔するなよ〜、時間も時間だからさ。ま、それに俺たちに触発されたから帰りたくなったんだろ。仲が良くて羨ましい~って思ったんじゃないか?いいじゃん、それで。惚気てやるのもさ」
「惚気てないですよ?」と、ロランは首をかしげている。
ロランが無意識にオーウェンを褒めているってのが、傍から見ると惚気なんだけどなと、思うが言わないでいる。
真剣な顔で悩んでいるロランが本当に可愛らしくてたまらない。
「ソファは寒いから、あっち行く?」
リビングは寒いので、暖房がきいて暖かいいベッドルームに誘うと、コクンと頷いてくれた。
「それにしてもロランは面白いな。好きの使い方なんて、そんなこと考えてたのか」
行儀は悪くドサッと音を立ててベッドに横になる。それにつられたロランもベッドにコロンと横になり、オーウェンにピトっと身体をくっついてきた。
「いっつも考えました。私なんて、好き!って言うだけで、上手に伝えられないから」
「でも、それが正解だよ。俺はさ、ロランから好きって言われるのが嬉しいぜ?好きとか会いたいって言われたりメッセージをもらうと、俺は無茶苦茶嬉しいんだぜ?」
「ふふふ...本当?そうなの?」
ぎゅっと抱きついてきた。だからもっと強くぎゅっと抱きしめ返した。ロランの身体は自分よりはるかに小さい。
「そうだよ。好きだって言われると嬉しくってさ、可愛い可愛い!俺のロランは可愛い!って悶絶してんだ」
ぎゅうぎゅう抱きしめながらそう言うと、あはははと目尻に涙を溜めて笑っている。
「もうっ!嬉しい!好き、オーウェンさん。片思いの時より両思いになってからの方が、好きが上乗せされていく感じです」
チュッと音を立ててキスをした。相変わらずロランの唇は柔らかい。唇の次は、おでこと瞼にキスをした。
「あのね、寝て起きると隣に顔があって、まだ寝てるなぁって見てるんだよ」
「あ、それ知ってるぞ?寝てる時、俺の鼻をちょんって触ってるだろ?クスクス笑ってるなって、寝ぼけながらも覚えてる」
「あはは、やっぱり?あのね、目が覚めても隣にいるって思うと可笑しくて嬉しくて。手を伸ばしてちょんと鼻を触るとくすぐったそうにして、でもまた寝てて。それが、私はすっごく嬉しくて好きなんです。胸がぎゅーってなります」
「…好きだって思う?」
キスが瞼から頬に移り、唇に戻っていた。
「うん…そう。起きても隣にいてくれる、オーウェンさん大好きって思ってる」
「あはは、ロランの方が、好きの使い方が上手いじゃん!」
「本当に?好きの使い方合ってる?」
オーウェンは笑いながらもう一度、ロランの唇に音を立てた。
好きの使い方か…使えば使うほど好きって増えていく。明日も起きたら鼻を触られるのかな。くすくすって笑う小さな声で起こされたい。目が覚めても、笑ってるロランが隣にいて欲しい。
「ロラン…あのな…」
クスクスと笑うロランの耳元で、小さな声で囁いた。
「…私もです」
同じくロランも小さく呟いてくれた。
end
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