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セーラー服と学園祭 4

金曜日の夜、実は矢吹からメッセージが来ていた。 内容は一緒に南のクラスの喫茶店に行きたいとのことだった。 理由を聞いたら、どうやらお気に入りの洋菓子店のオーナーの娘が手作りクッキーを作って販売すると聞いたらしい。 矢吹の甘味網に脱帽しつつ、まあ断る理由もないし一緒に行くことにした。 1人で行くつもりだったんだけど、高校の学園祭だから誰か一緒にいるとありがたかった。 大也でも誘おうかと思ったけど、絶対に茶化されるのは目に見えてたからなし。 まあ、そういう経緯があって矢吹と学園祭に行くことになった。 校舎内に入るやいなや、さっそく南のクラスメイトと思しき2人組を見つける。 男子と女子がそれぞれ女装・男装をしていて、そのクオリティーが思った以上にすごい。 そのクオリティーの高さとプラスして、とにかく宣伝力が抜きんでてた。 2人はコンビを組んでるんじゃないかって思うぐらい、息ぴったりの掛け合いを披露していた。 その2人のまわりにはギャラリーが多くいて、歩けばみんなついて行く始末。 今時の高校生の学園祭ってクオリティーすごいんだなと感心しつつ、お目当ての教室へ向かう。 「今思ったんなけどさ」 「一応聞きますけど何ですか?」 「さっきの男子であれなんだから、南がどれほど可愛いのか想像したら頭痛くなってきた」 「はいはい、南のことになるとほんとおバカさんになりますね」 「誰のおかげで追試受かったんだっけ?」 「口が滑りました八雲さんのおかげです」 チッと舌打ちすれば、冷や汗をかきながら謝ってくる。 このやり取りももはやテンプレとなってしまったので、最初はイラついてたけど最近はもう逆に落ち着いてくる。 南の教室のある3階へ着けば、一際賑わってるところがあった。 間違いなく南のクラスだろう。 教室の前まで行けば、廊下に沿って並べられてる椅子に数人座ってた。 正直こういうところで並ぶのは嫌いだけど、南のためなら屁でもない。 矢吹と並んで腰を下ろす。 「あの賑わいっぷり見てびっくりしましたけど、今は人落ち着いてますね」 「いい時間に来れたかもな」 「俺が寝坊したおかげ――あ~嘘です嘘です絶対零度の眼差しやめてください」 こんなかんじで矢吹と会話をしていたら、10分と待たずに順番がまわってきた。 学園祭だし、ちょっと休んですぐ違うところを見て回る人が多いみたいだ。 案内されて室内へ入れば、すぐにわかった。 後ろ姿でもわかる、俺の可愛い南。 「やば…南すごく可愛い」 気がついたときにはそう言葉を零していた。 ゆるく巻かれたクリーム色のセミロングの髪が、動くたびにふわふわと揺れ動いてつい目で追いかけたくなる。 その柔らかい髪色と髪型に、水色の襟とスカートはナチュラルに感じられた。 南は驚きすぎて声が出ないんだろう、顔を赤くさせて口は金魚みたいにパクパク動くだけ。 「うわ、マジだ南女の子にしか見えないね」 「ちょっと…矢吹がそういうこと言うのちょっと無理なんだけど」 「いや褒めてるじゃん!?貶しても怒るでしょ八雲さん」 「当たり前だろ…」 「はは。お前何言ってんの?って顔で見るのやめてもらっていいですかね」 「あの、席案内するんでとりあえず座りましょう!ね?」 慌てた様子で間に入ってくる南が健気で可愛くて、今ここに誰もいなかったら確実に押し倒してたぐらいには盲目。 席へ案内してもらって、メニューを渡してくれた。 注文をして、オーダーを伝えに行こうとする南の尻を手の甲でするっと撫でる。 可愛い恋人がせっかく女装をしているのに何もしないっていうのは、俺にはムリだった。 ひらひら揺れるその短いスカートも、俺を誘ってるようにしか見えなくて。 南は当然、期待通りの反応をしてくれて。 この可愛い生き物は俺恋人なんだと思うと、謎の優越感が生まれた。 「お待たせしました。アイスティーとアイスコーヒーとクッキーです」 「ありがと南」 「このクッキーの焼き加減…さすが…」 矢吹は飲み物なんかに目もくれず、クッキーに釘付け。 その熱意を少しでいいから勉学のほうにも回してもらいたい。 「ごゆっくりしてください」 そう言って仕事に戻ろうとする南の顔には、もっと俺と話していたいって書いてあって。 「あ、南。ちょっとだけ」 踵を返した南を呼び止めて、こっちに来させる。 耳元で明日も来るから一緒に回ろうって言えば、あからさまに嬉しそうな顔をする。 その顔を見たら、キスをしたくなって。 さっと周りを見渡し、死角になることを確認してからチュッと頬に唇を落とす。 「やっ、くもさ…」 唇に人差し指を当てて静かに、っていうジェスチャーをすればしゅんとして。 心ここにあらずっていう感じでふらふらと仕事に戻ったかと思えば、キビキビと動き始めて俺は小さく吹き出した。

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