108 / 238
セーラー服と学園祭 5
学園祭3日目の日曜日。
仕事の頑張りが認められた南は、午後の自由時間が認められたらしい。
「着替えてくるので待っててください」
ってさっき言われたけど、当然ながらそんなことをさせるはがなく。
むしろクラスの女子に化粧直しをお願いした。
「可愛いよ南」
「もう、絶対、女装しません」
「フラグ立ててくれてるの?」
「違います!」
しばらくぷりぷり怒ってたけど一緒に回ってるうち、そんなご機嫌もとれてきた。
でも俺は知ってる。
なんだかんだ、可愛いって言われて喜んでる。
女装にまだ慣れてないかんじだけど、俺から可愛いって言われることは何より嬉しがるのが南。
とことん南を甘やかして、エスコート。
俺のために仕事頑張ってくれたし、今日は南にお金を払わせない。
ここが南の学校だなんてことまったく考えずに、普段通りに接して。
吹奏楽部の演奏を観て、柳の所属してる軽音楽部のミニタイブを観て、カフェでちょっと休憩。
今はお化け屋敷に来ていて、もうすぐ順番が回ってくるところ。
順番待ちしてたら、服の裾をきゅって掴まれた。
その手は少し震えている。南を見れば、俺と顔を合わせないように、怖くないですよっていう然とした顔をしていて。
「大丈夫」
「……」
掴んできた手を握り、安心させるように笑いかければ微かに頷いた。
本人はまったく無自覚なんだろうけど、デレとツンの割合というか比率というか…それが完璧すぎて怖くなるときがある。
南はよく俺に振り回されるなんて言うけど、それはこっちのセリフだって言いたい。
普段は甘えてくることのほうが多いけど、時折見せるそのネコのようなツンとした態度に、何度やられたかわからない。
繋いだ手は少しだけ震えてて、でも南の態度はあくまで怖くないを装ってる。
こういうところがたまらなく可愛くて愛しくて、今すぐめちゃくちゃにしてやりたい。
南が怖がってる時でもこんなこと考えてしまうんだから、本当に節操がない。
「呪われた世界へようこそ…」
白装束に血糊を付けた受付の人(霊かもしれないけど)、俺たちを案内する。
中は簡単な迷路になっているみたいで、出口までかかった時間によって何か景品があるみたいだ。
番号札を渡されて、中に入ったら受付の人が計測開始、出口にいる係の人が何分かかったかを計る。
高校生の学園祭でやるお化け屋敷としては、かなりしっかりと準備されてると思う。
南の手を握りなおせば、ぴったりと腕に身体をくっつけてきた。
なにこの可愛い生き物…。
出てくるまでに理性が保てるかどうか、けっこう自信がない。
「や、八雲さん」
「うん?」
中へ入る直前、小さな声で俺を呼ぶ。
南を見れば、少し顔を赤くさせていた。
「手……離したら、いやです」
そう言って、握る手が少し強くなった。
これ以上可愛いことをされたら、本当に暴走しそう。
「お前、もう可愛いこと言うの禁止」
「え?それどういう…」
南が言い終る前に扉は開かれて。
大丈夫だって伝わるように、手にぎゅっと力を込めて足を踏み入れた。
ともだちにシェアしよう!