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本田八雲の追想 3

「八雲〜今日どう?」 休み時間。 トイレに行こうと席を立った時、クラスメイトの女から話しかけられた。 普段の俺だったらいいよって返事するところだけど、最近は年下の少年がうるさくてそっちに構ってあげないといけない。 その少年––南のことを避ければ済む話なんだけど、まっすぐに俺を見てくる汚れのない瞳から何故か逃げることができなくて。 「悪い、パス」 「え〜…最近付き合い悪いじゃん」 腕に胸を押し付けてその女は誘ってきた。 この女はそれなりに抱いたけど、顔がそこそこいいだけでセックスはそんなに気持ちよくない。 この女を抱くなら、まだ南といたほうがマシ。 右京さんと出会ってから女との付き合いは減ったけど、南のことを考えたらこういうことはもうやめようって思えて。 弓道教室も右京さんのために通ってたのが、いつの間にか南に会うためっていう目的に変わった。 俺にはないそのまっすぐで綺麗な心を持った南に惹かれ始めた頃、南家へお邪魔することになった。 どうやら心を許し始めた人間のお願いには弱いらしく、「うちに来てください」という南のお願いを断り切れなかった。 身内はともかく、他人の家にお邪魔することなんてなかったから初めて行った時はかなり緊張したのを今でも覚えてる。 「貴方が八雲くんね。いつも悠太(はるた)がお世話になっています」 「写真のいいモデルになりそうじゃないか!悠太、もっと早く連れて来なさい」 そんな俺の緊張とは裏腹に、南の両親は温かく迎えてくれた。 歓迎されることなんてなかったから、この時は嬉しさを隠すのでいっぱいいっぱいだったのを覚えてる。 南のお父さんは晴臣(はるおみ)さん、お母さんが夏子さんだと自己紹介してくれた。 「兄ちゃんは?」 「自分の部屋にいると思うけど…」 「わかった」 そう言って、俺を2階へ続く階段へと案内してくれた。 「オレの兄ちゃん、八雲さんと同い年ですよ」 そう、これが南大也との出会い。 俺は「あ、そう」程度にしか思ってなかったんだけど、まさかおなじ大学に通う腐れ縁的な仲になるとは、この時は微塵も思ってなかった。 南が大也の部屋をノックして、返事を確認してから中に入ったから俺もそれに続いた。 簡単に自己紹介を済ませたところで、1階から南のお母さん--夏子さんが南を呼んで、部屋には俺と大也が残された状況になったんだ。 「あんたの噂、こっちの高校まで届いてるんだけど」 南がいなくなった途端に愛想のいい顔は崩され、軽く睨まれたのは絶対に忘れない。 「へぇ」 「悠太が嬉しそうにしゃべるから咎めたりしなかったけど……泣かせるようなことしたら、吊るすから」 「それはないから安心して」 「はっ。どーだか」 今でこそ普通の友だちとして接してるけど、当時の大也はかなりのブラコンだった。 敵意むき出しで、事あるごとに干渉してくる。 でも、それぐらい南が大切にされてるんだなってこともわかったから、惹かれ始めてはいたけど俺なんかと一緒にいていいような人間ではないとも思って。 「あれ?八雲さんまだここにいたんですね」 「ごめん、もう行くよ」 俺は後ろを振り向く事なく大也の部屋を出た。 これが、初めて会った時の俺と大也。 ある事をきっかけにお互いが友人として認めるんだけど、それはまた別の時に。 ちなみに、南の部屋ではお菓子を食べながら話したりゲームしたり…。 今では考えられない健全な時間を過ごしましたと。

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