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【番外編】君思う、故に我あり 1

「大きくて立派な笹を頂いたんです。よかったら皆さんで短冊書きませんか?」 と、右京さんから連絡が来たのは7月6日のお昼頃。 もちろんですと返信したあと、何故か矢吹と立花から「夜の12時半に集合!」っていうメッセージを受信した。 どうやら短冊に願い事を書いて笹に付けるのは、深夜の1時にするものらしい。 イベント好きの矢吹と立花は、こういう行事ものになると博識になる。 未成年もいるのにそんな深夜に出かけられるわけないだろって返信したら、どうせ八雲さんが行ってきますからお帰りまでエスコートするんですよね?と。 もちろん、そんなのお前に言われるまでもなく南をエスコートする。 するけど、それでも南が未成年でしかも高校生っていう事実は変わるわけじゃない。 本当はそんな夜中に連れて行きたくなかったけど、矢吹がもう南に伝えてしまっているらしい。 「楽しみですね!」 というメッセージと踊っているキャラクターのスタンプが送られてきてしまえば、南に甘い俺はノーとは言えなかった。 そんな訳で、俺は今南と一緒に弓道教室まで来ている。 さっさと書くもの書いて、早く家まで送り届けてあげないと。 中へ入ったら矢吹と立花はすでに来ていて、短冊に穴を空けて紐を通す作業をしていた。 「矢吹、2人やっと来たー」 「もう、遅いじゃないですか」 「南とお前たちの接触時間は最少にしたいんで」 「よーし八雲さんは今日も通常運転だ」 「ねえ八雲さん海はまだしも俺は害ないですよね?」 「そういうところなんだわ」 俺が呆れて溜息をこぼせば、後ろで南がクスクス笑う。 「ほんと仲いいですね」 「待って南、それどこ見て言ってる?」 「今のやり取りを見てですかね」 なお笑いながら言う南に、バカコンビは口を揃えて 「南はわかってる」 なんて言って、南の頭をわしゃわしゃと撫でる。 そんなに力強く撫でるなとか、てゆーか南から離れろとか、南も少しは嫌がってほしいとか…。 こんなに嫉妬するような性格だと思ってなくて、心の中がドロドロになるのが自分でも驚き。 いい加減離れろって言おうとしたとき、南がするりと抜けだして俺の背中に隠れた。 「オレはもう八雲さんのものなので、それ以上触りたければ八雲さんの許可をとってください」 うわ、何それ反則可愛いがすぎる。 こんなところじゃなかったらキスして舌も絡めて押し倒してるところだ。 突然の南の可愛い攻撃にみんなすぐ反応できなくて。 「これは南の一人勝ちですね」 と、麦茶を持ってきてくれた右京さんが、ぽんぽんと優しく南の頭を撫でた。 不思議なことに右京さんに対しては嫉妬とか全然起きなくて、むしろ我が子を見守るような気持ちになる。 「さあ、こんな夜中ですし早く終わらせて帰りなさい」 ああ、右京さんってやっぱり大人だ。 みんなが各々の作業に戻ったのを見計らって、南と小さく呼んで振り返ったところにちゅっと唇を落とす。 びっくりして声を上げそうな南の唇に、今度は人差し指を当てて「しー」と小声で言えば、 「バカ…好き…」 なんて言うもんだから、今日は送らないでうちに呼ぼうと決意した。

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