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【番外編】十五夜にセレナーデ
「さむっ」
「昨日暑かったのにな」
オレたちは今、八雲さんちのベランダに出てる。
今日は中秋の名月といって、1年で月が一番キレイに見える日らしい。
中秋の名月といっても、満月は明後日。それでも、いつもより輝く見える月は本当にキレイだと思う。
こういう特別な日は、八雲さんと一緒に過ごしたい。
隣いる八雲さんを見れば、ベランダの手すりに寄りかかりながらお酒を飲んでる。
たったそれだけなのに、背景の月と合わさっていつもより3割増しでかっこいい。本当にかっこいい儚いイケメンってかんじ。
オレはというと、さっき一緒にスーパーで買ってきたみたらし団子を食べてる。
未成年だし仕方ないけど、さすがにかっこよくお酒を飲む八雲さんと比べたら月とすっぽんぐらい差があるんじゃ…と思う。
「お酒美味しいですか?」
「美味しいよ。月は綺麗だし、南もいるし」
ほら聞いた?
ほんと八雲さんってこういう受け答えが大人。
暗くてオレの表情よく見えてないだろうけど、もう真っ赤になってることなんて手に取るようにわかるんだろうな。
マンガとかで「暗くてよかった」ってよく見るけど、オレのまったく八雲さんに通用しない。
「オレも飲んでみたいです、お酒」
恥ずかしさを隠すようにぼそっと言ってみたら、八雲さんの動きが一瞬だけ止まった。
こういうときは、あんまりよくないと思った証拠。
「可愛い南のお願いでも、それはだーめ」
「わかってるんですけど…オレも早く八雲さんと飲んでみたい」
「そうやってすぐ可愛いことを言うから我慢できなくなるんだよ」
おかしそうに笑うから、ちょっとはぐらかされたかな。
でも、嫌なはぐらし方じゃない。
八雲さんはどんな時だって、オレのことを一番に考えてくれるから。
「……月、キレイですね」
「今まで見た月のなかで、今夜が一番綺麗だよ」
俺たちは少し見つめ合って、静かに唇を重ねた。
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