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酩酊珍道中 2
「え、旅行当たったの?」
『そうなんです!』
南の高校の学園祭が終わり、セーラー服をクリーニングから受け取った帰り道。
南から着信が入って出てみれば、前に応募してた懸賞で旅行が当たったとの報告だった。
南から今月の連休は空けておいてほしいって言われてて、運試しのつもりで応募することは聞いてたんだけど…まさか本当に当たるとは思わなかった。
確率的に考えて当たらないだろうと思ったから、実はこっそり同じ日程で宿の手配をしてた。
これは帰ったらキャンセルの電話を入れないと。
「前から思ってたけど、南って持ってるよね」
南はわりとミラクルを起こすことが多くて、ちょっとしたラッキーは日常でよくある。
いや、起こすんじゃなくてきっと南のほうに自然と集まってくるだ…なんて言ったら、また南バカって甘党バカに言われそうだから黙っておこう。
『オレのラッキーは八雲さんが運んでくれてるんですよ』
スマホの向こう側で、南は恥ずかしそうに言った。
こんな可愛いこと言われたら、今すぐ抱きしめてキスしたくなる。
でも、こういう無垢さがまた南のいいところだから、その衝動をぐっと堪える。
「はぁ…ほんと、通話越しにそんな可愛いこと言わないで…キスしたい」
『――っ!』
今、南はどんな顔をしてるんだろう。
真っ赤になって慌てているのか、それとも実は案外満更でもなさそうな顔なのか….。
どっちにしろ可愛いことに変わりはないから、この後会ったらすぐキスをしようと決めた。
「行き先どこだっけ?」
さりげなく話題を変えたら、南のほっとした声が聞こえてきた。
さっきまで真っ赤にして慌ててたんだろうなと簡単な予測をして、南の返事を待つ。
『えっと、草津です。群馬なのでそんなに遠くないですね』
「温泉か、いいね。しばらく行ってなかったな」
『そういえばオレも久しぶりかも…』
南と付き合うようになってから…いや、南と知り合ってからの旅行は初めてだ。
しかも、その初めてが温泉旅行。
早く草津の湯と南に癒されたくて、年甲斐もなく今から楽しみになってきた。
『八雲さん、楽しみですね!』
「ん、楽しみ。行きたいお店とか調べておいて」
南はくすぐったそうに笑ったから、どうしたのかと聞いてみれば。
『八雲さんと旅行の計画たてるの、すごく楽しいです』
って、また俺を殺しにくるかのようなことをまた言うものだから、今日はキスだけじゃ済まないかもしれないと内心思った。
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