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酩酊珍道中 4

「八雲さん、湯畑!」 「やっぱり雑誌とかテレビで見るよりすごいな」 すごく美味しい蕎麦だったと、湯畑を眺める南を見ながら思った。 蕎麦の味はもちろんだけど、口元に付いた天かすを指で取って食べた後の南の反応が極上。 最近(2次元の)アイドルにハマり始めたらしい立花が「推しが可愛くてご飯3杯いける」って言ってて、いよいよ頭イカれ始めたなって思ってたんだけど…謝りたい。 今ならその気持ちがよくわかる。 南が可愛くていくらでも食べられそうだった。 昼食の後は招待券を使って、湯もみの体験。 テレビで観てた印象と違って、実際にやってみると力がかなりいった。 足腰といった弓道で普段使わないような筋肉を使ったから、もしかしたら筋肉痛になるかもしれない。 何より、湯もみをする南がえろい。 動かすたびに隣で「んっ」とか「ふぅっ」って声を出すから、口を塞ぎたかったし押し倒したくなるのを堪えた。 本人がまったく自覚していないところがまた天然で可愛いんだけど。 夜はうんと可愛がってあげようと心に決めて、湯畑まで歩いてきて冒頭に戻る。 「蕎麦食べて湯もみしかしてないけど、オレ、すっごい楽しいです」 本当に楽しそうに笑う南は無垢で、その笑顔を見れただけで旅行に来た価値があると思える。 「俺は南のその笑顔を見れただけで十分」 南はまた顔を真っ赤にさせて何か言いたそうに口を開いたけど、自分の顔を隠すようにそっぽを向いた。 それが悪いと思ったのか、俺の服の裾をきゅって握ってくる。 「……そういう可愛いこと、ここでされるとヤバイんだけど」 9月の連休で有名な観光名所だけあって、草津の街は観光客でごった返している。 人気の少ないところだったら、ここでキスのひとつでもふたつでも深いのでもしたいところだけど、さすがに思いとどままった。 「じゃあ、いつも所構わずキスしてくる八雲さんへの罰です」 「へえ…南はしたくないんだ、キス」 「そういう訳じゃ――!」 南がこっちを振り向いた瞬間、鼻の頭に一瞬だけのキスをする。 口を開けてぽかんとしてる南がおかしくて、少し噴出した。 「唇にしてほしかった?」 「………」 やっと何をされたのか理解した南は、耳まで赤くして俯いた。 そして、返事をする代わりに小さく頷く。 「いい子。これ以上のことは、また後で」 今日はいつにも増して素直で可愛い南をたくさん見られたから、夜はたくさん甘やかしてあげようと思った。 この時の俺はまさかあんな事になるとは思っても見なくて、せっかく草津に来たし旅館以外の温泉に入ろうと湯畑を後にした。

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