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酩酊珍道中 6
八雲さんと少しでも長く温泉を楽しみたくて、ガマンして浸かってたら頭がぼーっとしてきた。
気がついた時にはもう何回もされてるお姫様抱っこで運び出してくれて、着替えもぱぱっとやってくれてた。
そんな八雲さんは今、冷たい飲み物を買いに行ってくれてる。
さっきまで頭が全然働いてなかったんだけど、今は少しずつ落ち着いてきた。
オレ、また子どもっぽいことして八雲さんに迷惑かけてる…。
そんな自分が情けなく感じて、せっかくの旅行なのに胸がきゅっと苦しい。
下を向いてたら頭に血がのぼってきて、またぼーっとしてきた。
オレは天井を見上て、自分を落ち着かせるように目を瞑る。
9月といえど、逆上せるまで使ってたから身体はまだまだ暑くて。
閉まってたポロシャツのボタンを全部外して、服を掴んでパタパタを仰ぐ。
「ねえ、君大丈夫?」
不意に、頭の上から声が降ってきた。
ぼんやり目を開いてみたら、飛び込んできたのは青空を閉じ込めたような紺碧の瞳と、光を集めたようなキラキラな金髪。
今流行りのハーフタレントと言われてもおかしくないぐらい、美少年。
ぼーっとしてる頭にこんな美少年を見たら、誰だって頭がパンクすると思う。
実際、オレは思考回路がショートして固まってしまった。
「カワイイ子が顔を真っ赤にさせて胸元なんて見せてたら…危ないよ」
その金髪は白くて長い指をオレの喉ぼとけに当てて、そのままゆっくり下に降りてきた。
暑かったオレの身体は一瞬で冷えて、頭が「コイツは危険だ」ってアラートを出す。
八雲さんのところに行かなきゃと思って立ち上がった瞬間、立ち眩みがして全身から力が抜けた。
「おっと」
倒れる直前、その金髪の腕が伸びてきてオレを支える。
「辛そうだね。元気になるまで僕が一緒にいてあげよっか」
金髪はどさくさに紛れてオレのポロシャツの中に手を少し入れてきて、脇腹をするりと撫でられた。
「んっ…!けっこう、です!」
情けないことに少しだけ…本当に少しだけ、身体がぴくっとしてちょっとだけ反応してしまった。
コイツを突き飛ばして反抗してやりたいのに、まだ立ち眩みが残ってて自分の身体すらうまく支えられない。
八雲さんに見られる前になんとか離れたい気持ちと、早く戻ってきて助けてほしい気持ちとが心の中で渦になって。
「もう、大丈夫なので!」
とにかくコイツから離れた方がいいと本能が判断。
周りの人に聞こえるぐらいの大きめの声を出して、ぐいっと押し返そうと腕に力を籠めたら第三者の手が離してくれて。
「南!」
「あ…八雲さん…!」
金髪からオレを庇うように間に入ってくれた。
大好きな人が来てくれた安心感から体中の力がふっと抜けて、八雲さんが優しく抱きとめてくれる。
「わあ、お兄さんはすごくハンサムだね」
「……何した?」
「体調が悪そうだったから気になって声かけただけだよ。そんなコワイ顔しないで?」
「あはは、疑ってすみませんでした。俺も疲れたし、旅館に戻って休むから心配は結構です」
「それなら安心だね。僕も人を待たせてるから行くよ。じゃあね、バイバイ」
金髪は笑顔で手を振りながら、キラキラオーラを纏ってどこかへ行った。
「はあ…ごめん南、大丈夫だった?」
オレの熱を確かめるように頬とかおでこを撫でられる。
八雲さんの体温が気持ちいい。
「ちょっと…危なかった、かも」
正直に打ち明けたら、八雲さんはぎゅっとオレを抱きしめてくれて。
心配かけさせて申し訳ないっていう気持ちで胸がいっぱいになる。
「もっと早く戻ることができたのに…ごめん」
「でも、八雲さんは絶対来てくれるじゃないですか」
首元に唇を這わせて、ちゅっとキスをひとつ。
これで安心させられるかわからないけど、今のオレができる精一杯。
八雲さんは長いため息をついたら、ピリついた雰囲気がなくなった。
「今すぐ抱きたい」
って耳元で言われて、オレの熱はまた急上昇。
せっかく修復した思考回路がまたショートして、顔から湯気を出しながら倒れた。
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