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酩酊珍道中 7
飲み物を買うために南から離れた俺は、食堂を出て廊下を進み、ロビーにある自販機へ走らない程度に急いで向かった。
南が逆上せやすいことはわかってたのに、歩けなくなるまでになってたことに気が付けなかった自分が情けない。
一瞬でも南がその気になってきたんだと思ってしまったから、逆上せてることに気がつくのが遅れた。
逆上せたぐらいでって思われるかもしれないけど、南の体調はもちろん精神的な面でもしっかり把握していたい。
南のことが大事だから。
それに、夏祭りの件もある。
あれ以来、南に対しての過保護っぷりがまたひどくなったと思う。
――夏祭りの時も、南を残して俺1人で物を買いに…。
背筋がぶるっと震えた。
1回嫌な予感がしたら、それはなかなか拭えなくて。
ぐるぐると思考を巡らせてたら居ても立っても居られなくなった。
飲み物なんてここを出てもいくらでも売ってるし、まずは南の元に戻るのが先決だと判断。
踵を返して来た道を戻ろうとしたら、前から歩いてきた2人組の女に捉まった。
こんな女たちに構ってる暇なんかあるはずもなく、そのまま無視して素通りしたいところだったけど…いかんせん、ここは有名な観光地だからあまり大きな騒ぎを起こしたくない。
とても丁寧に、だけどハッキリと断るのに30秒ほど時間がかかってしまった。
この30秒が本当に生きた心地がしなくて、早く南の元に戻りたいの一心。
女が去ってからは小走りで食堂に戻って、待っているはずの南を視線で捉えたら――
「っ、南…!」
そこには見覚えのないハーフだろうか…誰もが目を惹くであろう金髪の少年がいた。
状況から察するに、立ちくらみをした南を支えてくれているところだと思う。
それにしてはちょっと距離が近いけど、ハーフのようだしただの文化の違いかもしれない。
とにもかくにも、南が無事でよかった。
俺はすっかり安堵して、ゆっくり南たちに近づいて行った。
俺が安心したのも束の間、その少年はあろうことか南のポロシャツの中に手を入れ、脇腹をそっと撫でている。
南は嫌悪感を表情に出しながらも、ぴくっと身体は反応させてて。
「んっ…!けっこう、です!」
南の張った声に弾けるように俺の脚は動き出して、2人の間に割って入った。
安心して力が抜けた南を抱き止めて、胸の奥に煙のようなものがかかったような気持ちに襲われる。
その後のことは感情のままに行動したと思う。
あの少年には殺意飛ばしすぎたかもしれないけど、あれぐらいじゃ足りなかったかもしれない。
宿まで行く途中で甘味処に寄って南にお茶を飲ませて、15分もしないで出てチェックインをした。
「夕飯まで休んでたほうがいい」
南を座椅子に座らせて、顔色を確認しながら言う。
さっきよりも顔色はよく、足取りもしっかりしててひとまず安心。
「でも…せっかく来たのに」
「草津なんていつでも来れるし、今休んでおかないと……夜、耐えられる?」
「たっ…!?」
相変わらず思った通りの初な反応を見せてくれる南が可愛くて、今日ずっと我慢してたキスをした。
ちゅっと口付けて、1回離れて南の反応を窺う。
「……もっと」
瞳を滲ませて、猫なで声でねだる。
こんな可愛い恋人を見たら、誰だって理性は放り出したくなると思う。
「少しだけな」
「八雲さん、好き…」
南がちゃんと呼吸できる程度に抑えつつ、深いキスをしばらく堪能した。
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