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酩酊珍道中 8
八雲さんに呼びかけられて目を覚ましたら、夕食が運び込まれてる最中だった。
ゆっくり眠れたおかげで、もうすっかりいつも通り。
ご飯はどれも美味しくて、夢中になって食べてた。
食後に飲み物が運ばれてきて、オレはお茶を、八雲さんは焼酎を飲んでゆっくりくつろいでる。
今は旅館によくある窓際のあのスペースに、机を挟んで向かい合って座ってる。
ちなみに、そのスペースは広縁っていうらしい。
八雲さんが教えてくれたんだけど、本当にいろんなこと知ってるなぁって惚れた。
そんな八雲さんは、お猪口を傾けながら優雅に日本酒を嗜んでる。
もうその姿の写真を撮れば、絶対に広告とか雑誌の表紙を飾れるレベルで様になっててかっこいい。
ガラスに映る八雲さんが映画のワンシーンみたいで、オレはお茶をちびちび飲みながらこっそり盗み見てた。
八雲さんが黙ってどこか一点を見つめてる時は、大抵考え事をしてるからあまり邪魔しないようにしてる。
構ってほしいとは正直思うけど、趣のある広縁に座ってる八雲さんの憂い顔はなかなか見れるものでもないから、ありがたいと思って目に焼き付けておこう。
コップを置いてしばらく八雲さんを眺めてたら、いつの間にか眠っていたようで。
なんだか呼吸が苦しくなって目を覚ましてみれば、目の前には八雲さんの顏。
「やっ、!?」
びっくりして声を上げた時、やっとキスされているんだと気がついた。
八雲さんはオレが目を覚ましたことに気がついてなさそうで、ひたすら舌を弄ぶ。
どれだけ日本酒を飲んだかはわからないけど、このキスはアルコールの味が強くて。
いつもとは違った熱さとふわふわに襲われて、自分がとろんとしていくのがよくわかった。
いつもと違った感覚に戸惑ってたらだんだん呼吸が苦しくなって、とんとんと八雲さんの胸板を軽く叩いてみる。
「あ、起きた?目覚めのキスだね」
「は――」
八雲さんはよく※ただしイケメンに限るができるようなことをサラっとやってのける人だけど、こういう…イタリア人やフランス人が言うようなセリフは今まで言ったことはない。
もしかして、酔ってますか?
そう言おうとして口を開いたとき、八雲さんの顔が近づいて交わされる深いキス。
まるでそのタイミングを狙ってたかのように自然にキスをされて、オレはまたふわふわとし始める。
八雲さんの吐息からアルコールの香りがして、オレまで酔ってきそう。
「ぁ…んぅ…」
口先から蕩けそうなキスが気持ちよくて、どんどん甘えたい欲が出てきて。
もっともっとっておねだりするように、八雲さんの首に腕を回して自分の方に引き寄せる。
「甘えたな南も可愛い」
「ん…もっと、」
もっと八雲さんとくっつきたくてぐいっと引っ張って、半ば無理やりオレの上に座らせた。
「わあ…大胆」
ちゅっと音を立てて唇が離された。
もっといっぱいキスしたかったのに…さっきまで繋がってた唇を眺めてたら、八雲さんがふわっと笑う。
「首元まで赤いよ。もしかして、酔った?」
「うー…酔ってるのは、八雲さんじゃないですかー」
オレの上に向かい合わせで座ってる八雲さんをがっちりホールドして、胸元にぐりぐりって頭を押しつける。
なんか、今はとにかく八雲さんにひっついて甘えたい気分。
これが酔ってるっていうことなら、多分そうなのかな…普段なら恥ずかしくてまず躊躇っちゃうようなことを、別にいいかなって思える。
「南は酔うと素直な甘えたになるんだね……可愛い」
「んっ…」
耳元で囁かれただけで、八雲さんの甘い声が全身を電流みたいに駆け巡って。
身体がぴくんって小さく跳ねた。
「今ので感じちゃった?」
くすくす笑いながら意地悪そうに聞いてきて、いつもならここでそんなことないって否定するんだけど…。
「は、い…」
不思議なことに、素直にこくんと頷くことができた。
八雲さんは一瞬驚いたように目を見張った後、「へぇ…」と意味深な声を出した。
この時、すでに八雲さんは相当酔ってたみたいなんだけど、そこまでと思ってなかったオレはこの後あんなことになるなんて思いもしなくて。
オレの事をお姫様抱っこして布団の上に下され、いきなり目隠しをされて身体が固まった。
「や、だ…八雲さん!」
助けを求めるように名前を呼べば、頭を優しく撫でられて。
「今日は、南にお仕置きするから」
悪魔のようなセリフに、喉がひくっと鳴った。
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