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酩酊珍道中 14

疲れた。 とにかく疲れた。 温泉って溜まった疲労をとるとか、何かしら効能が期待できるものであるはずなんだけど。 めっちゃ疲れた。 まあそ幸せな疲れではあるからいいんだけど…すっごい甘くてしつこくて絶倫で…もうなんて言えばいいかわかんない。 貸切の露天風呂で全身くまなく、それはもう懇切丁寧に身体の隅々を超えたナカまで洗われ、その後は素股をされ温泉に浸かってしばらく死んだように目を瞑ってた。 せっかくの綺麗な日本庭園も、全然楽しめず。 部屋に戻った後もなんだかんだ言葉巧みに誘われ襲われ…朝起きた時はまさにリビング・デッド。 布団から全然起き上がれなくて、朝からずっと八雲さんに介抱される始末。 「弱ってる南可愛いね」 「あの…怒ってもいいですか?」 「怒ってる南も可愛いから大丈夫だよ」 「すみません、ウソです。これぐらいじゃ怒らないです」 「俺はそういう素直な南が好き」 「そうやってすぐナチュラルに言う…!」 相変わらず会話の流れで「好き」とか「可愛い」とか言われるのは恥ずかしくて、布団を頭まで被る。 「すぐそうやって可愛いことする…襲われたい?」 「違います!」 ただ冗談で言ってるのはわかってるんだけど、やっぱり恥ずかしい想いのほうが強くて反射的に反論しちゃう。 本当はこういう時、八雲さんみたいにもっと大人な返しをしたいんだけど…まだまだできそうにない。 「お腹は空いてる?部屋に朝食運んでもらおうか?」 「ん…大丈夫です、お腹空いてないから」 「わかった。じゃあゆっくり準備してチェックアウトしよう。南はギリギリまで寝てていいから」 オレの経験上、こういう時の八雲さんは絶対に「オレも手伝います」って言っても受け入れてくれない。 たまにオレのこと大事にしすぎてるなって思うこともなくはないけど、八雲さんの目はいつだって真剣だから何も言えなくなってオレが引き下がることになるんだ。 「ありがとうございます…」 八雲さんはにっこり笑って、オレが暇にならないように適度に話しかけてくれた。 こういう気づかいと気配りは100点満点を超えて120点。 オレに八雲さんフィルターがかかってる部分もあるかもしれないけど。 「今さらだけど、全然ゆっくりできなくてごめん」 「え…大丈夫、それは全然…あの、あまり気にしてないです」 オレが当てた懸賞旅行なのに、けっきょく湯もみぐらいしか観光らしい観光でいなかったのを気にしているんだろうか。 たしかにこれが友だちとかだったらちょっと物足りなさはあるかもしれないけど、今一緒にいるのは八雲さんだから…八雲さんが一緒に草津まで来て、旅館に泊まってくれたことが嬉しい。 そのことを伝えれば「そう言うと思った」と言って、ちょっと困り顔で笑った。 「今度は俺が南をどこか連れて行ってあげる」 「どこかって?」 「うーん…近場じゃないところ」 「だいぶざっくりですね」 「じゃあ、俺が南をずっと連れて行きたいなって思ってたところ」 「それは、八雲さんにとって大切な場所ってことですか?」 「まあ、そうとも言えるかな」 「え…どこですか、それ?気になります」 「それはまだ内緒」 「えー…」 八雲さんはオレのほうを見て、口元に人差し指を当てる。 ほんと、何をしてもかっこいい人ってこの世に存在するんだなって改めて感心してしまった。 でも、こうやって八雲さんのいろんな約束事をしていくのはすごく嬉しい。 「じゃあ、約束ですね?」 「そう、約束。…ほら、荷造り終わった。帰ろうか」 まだ痛む腰をかばいながらゆっくり上体を起こしたら、八雲さんが近づいてきて傍にしゃがんだ。目をつむれば、唇にキスが落とされる。 「キスを待つ南も可愛い」 「~っ、もう!」 八雲さんは意地悪く笑って、オレを支えながら布団から出してくれた。 フロントに電話して荷物持ちを手伝ってほしいことを伝えると、すぐに旅館の人が2人来てくれて。 八雲さんはオレをおんぶして、バスまで運んでくれた。 散々と言っちゃえば散々だけど、素直にまた旅行に行きたいなと思った。 けっきょくこの日はまともに歩くことができず、八雲さんのアパートに1泊することになって…その後のことは、想像にお任せってことで。

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