149 / 238

立花昴のパラレルワールド(仮)

あ、どうもはじめまして。 いつもお騒がせしている矢吹海(やぶきかい)の幼馴染、立花昴(たちばなすばる)です。 海があまりにもアレだから今までの登場回数多かったけど、俺がその間あることに熱中になってた。 そう、アイドルの追っかけだ。 まさかまさか俺がドルオタになるとは思ってなかったんだけど、気がついたらグッズなんかも買い集める立派なオタクになってて。 俺の推してるアイドルグループはflos(フロース)という男3人組。 なんでまた男の俺が男のアイドルにハマったかたいうと、姉ちゃんに「友だちにドタキャンされたからライブについてきて」と脅さ…お願いされたから。 交通費も出してやるからと言われ、まあタダでライブ観に行けるならいいかなって軽い気持ちで承諾したんだけど…これが最高にかっこよくて! ちょっと説明みたいなかんじになっちゃうんだけど。 flosはさっきも言ったけど3人組のユニット。 駆け出しのアイドルってかんじで、まだ知名度はそこまでないけど着実に大きくなっていってるアイドルグループ。 1年後には1万人のキャパでライブができるんじゃないかと言われてるぐらい、波に乗ってる。 リーダーは神林菊(かんばやしきく)。 特徴はなんといっても絶対に外さないメガネ。メガネを外すときは好きな人の前だけらしい。こんなの男のオレでもときめく。 2人目は藤恭輔(ふじきょうすけ)。 正統派王子アイドルって感じで、ファンサが圧倒的に多い。いわゆる神対応。 そして3人目が姫野楓(ひめのかえで)。 名前から想像できる通り、可愛い系の男の子。たまに見せる裏の顔に死者多数。 ちなみに姉ちゃんの推しは藤恭輔で、俺は神林菊。 きっと海みたいなちゃらんぽらんとずっと一緒にいたから推しになったんだなって勝手に想像してるんだけど…。 そんな俺は、今、人生で最大の事件に出くわしている。 「おい…大丈夫か?」 「あっ、いえ、あのっ…だめです!」 「はあ?なに、どっか痛いの?」 「痛くはないけどしんどいっていうか…」 「頭がダメそうだな」 そう、なんと、今会話しているのは俺の推し、神林菊ご本人なわけで。 絶賛、大混乱中。 なんでこうなってるのかちょっとよくわかんないけど、ぼーっとしながら歩いてたら蛇行してきた車とぶつかりそうになったところを助けてもらったみたい。 ちょっとした騒ぎになってたみたいだけど、接触してないし俺がピンピンしてるのがわかれば、周りの人たちは日常へと戻っていった。 いやでもこんな偶然ある?俺やばくない?何か言うべきじゃない? 「頭はダメだけど元気そうだな。次からはボケっとしてんなよ」 じゃあなと言って立ち去りそうになって、俺はもうこんなラッキー二度とないしどうにでもなれって思いになって。 神林菊の手首をがしっと掴んだ。 「あの!俺、神林くんのこと好きです!」 「は?…お前と俺は、どっかで会ったことあったっけ?」 「え…いや、あの、違います!アイドルとして好きで、だから応援してて、この前のライブもすごかったし…」 頭がパニックになって思いついた言葉をとにかくしゃべってたら、神林菊がぶはって笑った。 「あはは!そっかそっか、俺のこと知っててくれてたのか。同性のファンは珍しいから嬉しいよ。ありがとうな」 にかっと笑った顔に俺の心臓はきゅんとして、顔が熱くなっていくのがわかった。 こんなの初恋の時以来の感覚でどうしていいかわかんない。 いや、そもそもこれは俺の都合のいい夢かもしれない。その可能性は大いにある、ありすぎる。 「ばーか、夢じゃないから。ほら、そろそろ立てるだろ?」 「立てます!元気です!」 「お前、ちょっと時間ある?」 「あります!」 「じゃ、ちょっと付き合えよ。お気に入りの喫茶店がすぐそこだから」 「はい!…………はい?」 「ほら、こっち」 俺の理解が追いつかないまま、神林菊は俺の手首を握ってずんずん歩き始める。 なんだこれ、現実? 神林菊に手首掴まれて、これから喫茶店? パラレルワールド? 姉ちゃん、俺は今日死ぬかもしれません。

ともだちにシェアしよう!