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【番外編】テディベア
「南ってほんと柔らかいよな」
「えっ…?」
八雲さんに突かれながらそんなこと急に言われても、頭ぐちゃぐちゃで呂律も回ってない状態じゃ返事がままならなくて。
「オレっ、やわ、かい…?」
「ん…すごく…こんな体勢とか、できちゃうし」
「あっ、まって…!」
ぐちゅり 、と八雲さんと繋がってるところから一際大きな音がして、容赦なくガツガツ一点を攻められる。
「あ……もう、だめ……イきそっ……んぅ!」
果てた瞬間からの記憶がなくて、次に目を覚ましたときは身体もベッドも綺麗な状態になってた。
「おはよ」
目を覚ましたオレに気がついた八雲さんが、寝起きにふさわしい爽やかな笑顔で挨拶をしてくれた。
陽の光と重なってめちゃくちゃ眩しい。神かと思った。
もぞもぞと上半身を起こして、昨日八雲さんが言ってたことをなんとなく思い出して。
「八雲さんって、かたいんですか?」
「え、待って、固いって……ナニが?」
「え?ナニ…?じゃないです!身体」
「びっくりした、新しい誘い文句かと思った……」
「こっちがびっくりしましたよ……」
でも八雲さんのおかげで、完全に目が覚めた。
普段はめちゃくちゃかっこいいのに、たまに親父っぽいところを出してくるのは何でなんだろう。
ギャップが堪らない。オレも大概バカ。
「うん、けっこう固い」
「でもスポーツ得意ですよね?」
「体力測定は柔軟性が極端に低かったな」
「意外」
「俺だって苦手なもののひとつやふたつあるよ」
「八雲さんも人間なんですね」
「おいこら」
八雲さんってだいたい卒なくこなしちゃうから、こういう苦手なものを知ることができたのは素直に嬉しい。
それを知ってるのはオレだけであってほしいっていう願望はそっと隠しておこう。
「どれぐらい固いんですか?」
「え」
「興味ある」
「自分で言ってて悲しいけど、引くよ、ほんと」
「だめ…?」
「だーめ」
「お願い…八雲さんのこと知りたい」
「お前さ、それは、ずるい」
知ってる。八雲さんはオレに激甘だから、オレのお願いにすごく弱い。
今こそそれを活かさないでどうするんだって、オレの反応が告げた。
「笑うなよ」
「はい」
「……言ったな?」
「誓って」
精神統一するみたいに仰々しくふーっと息を吐いて、マットの上に脚を開いて座った。
八雲さんはヤバイって言ってるけど、実際のところなんだかんだ人並みには柔らかい気がする。八雲さんの基準は普通の人よりちょっと高めだから。
「ふっ」
「………」
「んーっ」
「……え、マジ?」
「まじ」
苦しそうな声をしてるから、きっと、マジなんだろう。
これは、想像以上に固い。
っていうか、
「テディベアみたい」
「笑われるより恥ずかしいからやめて」
▽10月27日:テディベアの日
八雲「そうじゃない」
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