151 / 238
【番外編】腹ペコ狼と流され神父
「おにいさん、おかし!」
「違う違う。なんて言うんだっけ?」
「とりっくおあとりーと?」
「よく言えました。ほら、好きなの持って行きな」
10月31日、ハロウィン。
右京さんの弓道教室では、ささやかなハロウィンイベントを開催していた。
大学生以上の生徒が簡単だけど仮装して、弓道教室まで来た人たちにお菓子を配ったり、ちょっと驚かしてみたり。
この日のために、昨日からハロウィンの飾り付けとか手伝っていた。
といっても大学生以上なんて俺、矢吹、立花しかいないし、南も手伝いたいと言って来てくれたからメンツはいつもと変わらなかったけど。
右京さんはご近所付き合いが上手だから、このハロウィンイベントもまあまあの賑わいになってる。
子どもたちは仮装していたりしていなかったりと様々。
ちなみに俺は狼男の仮装。耳と尻尾を着けさせられた。誰とは言わない。
狼男に扮した俺をみて、南が似合ってるって言ってくれたから奴は命拾いをした。
あと15分でこのハロウィンイベントが終わるとあって、人はだんだんまばらに。
ずっと奥様方の相手をしていた右京さんが、ちょっと疲れた顔をしながら近寄ってきた。
「八雲、今日はありがとうございました」
「俺なんてちびっ子にお菓子配ってただけですし」
右京さんは挨拶もそこそこに離れていった。
「八雲さん八雲さん」
名前を呼ばれて振り返ると、吸血鬼に仮装した矢吹がいた。
「トリックオアレポート」
「帰れ」
「渾身の一言なのに!」
「そういう柔軟な発想力は評価する」
矢吹は相変わらずで頭が痛くなる。
でも逆にこういう時でもブレないところはさすがというか、そういうところは褒めてあげたい。
「これやるから」
「なにこれ」
「俺の手作りかぼちゃケーキ」
「え!」
「なに、いらない?」
「いります超いりますありがとう八雲さん」
まあ、なんとなくこうなるだろうなと思ったから、矢吹撃退用のお菓子を作ってきてよかった。
時刻は19時。
ようやくハロウィンイベントが終わって、右京さんの合図で片づけの作業を始める。
ずっと頭につけていた狼の耳のカチューシャを外したくて、俺は荷物を置いている更衣室へ向かった。
椅子に座って一息つくと、後を追って来たのか神父姿の南が顔を出してきた。
「やっと八雲さんと話せた」
「けっこう忙しかったな」
「八雲さん充電」
「なにそれ、可愛い」
俺の隣に座ってぎゅっと抱きつく。
何故だか今日はちびっ子たちに人気で、本当に南と全然話せなかったから甘えてきてくれるのは素直に嬉しい。
俺も南不足で正直少し辛かった。
しかも、せっかく南が神父に仮装してるのに全然見れてない。
こんな可愛い神父がいたら、すぐ手を出しそうだ。
「八雲さんさ」
「うん?」
「お菓子いらないからオレにイタズラしてもいいですよ」
「……お前さ、俺を煽って楽しい?」
「だって……」
なんなんだろうこの可愛い生き物は。
俺に構ってほしくてイタズラしてもいいよって言うのはずるい。
そして日に日に新しい煽り文句を覚える南が怖い。
「じゃあ、遠慮なく」
「ま、待って!今じゃなくて、この後!」
「そっちから煽ったくせに、なに焦ってるの」
「いや、だって、みんなまだ片づけしてるし」
「片づけしてるならしばらくここには来ないだろ」
「戻ってくるかもしれないじゃないですか…」
「あのな、お前の狼は腹ペコなの」
「お菓子あげます!」
「足りないのはお前」
「んっ…!」
南を黙らせるように、唇をキスで塞ぐ。
最初は抵抗してた南も、角度を変えて舌を絡めてやればすぐに大人しくなった。
「で、神父様、どうする?」
「もう、八雲さんの好きにして……」
▽10月31日
ハッピーハロウィン!
ともだちにシェアしよう!