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ワンナイト・ヴァンパイア 4
南に首元を噛まれて血を飲み始めたのは、当然びっくりした。
麻酔や注射のときとは違った鋭く鈍い痛みが走って、思わず顔を歪める。
このとき脳裏をよぎったのは、映画とかでよく見る黒いマントに身を包んだ吸血鬼だった。
南が吸血鬼――?
その考えに至った瞬間、ぢゅるるっと音をたててごくごく血を飲み始めた。
噛まれているところから甘い痺れのようなものが広がり始め、全身に電気が流れているような感覚になる。
身体はびくっと震え、息もあがる。
びりっとした感覚が抜けたころ、今度は頭がとろんとし始めた。
身体から力が抜けて、自分自身を支えるのがけっこう辛い。
「んは…おいしい…」
ぺろりと唇の端から垂れる俺の血を舐めるその姿は、ひどく妖艶で扇情的だった。
今までに見たことないえろさがそこにはあって、俺の下半身が反応するのは道理と言ってもいい。
南の様子がおかしかったのは吸血行為に耐えるためと、打ち明けたとき俺に嫌われたらどうしようという思いがあったからだそうだ。
まったくこれぐらいじゃ嫌いになるはずないのに、俺の南はどうやら吸血鬼になってもすこぶる可愛らしい。
「キスしよっか」
「…….ん」
少しだけ唇をとがらせて、ちゅ、ちゅとついばむようなキスを繰り返す。
こういう焦れったいキスを続けてると、南がガマンできなくなって俺に訴えてくるのは、もちろんわかってる。
けど、毎回違ったおねだりをしてくるからつい意地悪をしてしまう。
今日はどんなふうに煽ってくるんだろうと考えていたら、胸元を掴まれて南の方に引き寄せられた。
「う、わ」
受け身をとろうとしたけど、さっきの吸血にあてられたのか力が入らず、南の上にそのまま倒れ込む。
南の顔の横に両手をついてなんとか上体を起こす。
頭がくらくらして、荒くなりそうな息を堪えた。
それをごまかすように、どうしたのと首を傾げたら南が息を詰まらせた。
それも一瞬で、手を伸ばしてきて俺の首に腕を絡めて。
「――きて」
このたった一言で、心臓に火が付いた。
「今の、けっこうきた」
舌なめずりをして、南にゆっくり覆いかぶさる。
静かに目を閉じた南に胸がきゅっとなって、今度は恋人同士がするような甘いキスをした。
南の漏らす吐息さえ逃がさないように、深く強く求めて。
余すところなく口内を蹂躙するたび、まつ毛をふるりと震わす初な反応がさらに火を付ける。
「っん……」
鼻から抜ける甘い吐息が肌に当たって、それだけでも興奮する。
だんだんコントロールができなくなってきてる自覚を覚えつつ、それでも南と繋がっていたいという想いのほうが遥かに大きくて。
「はぁっ……すき……」
激しいキスの合間でも「好き」を伝えようとしてくれる南が本当に可愛い。
「んっ…俺のほうが、好きだよ」
「んふふ……うれし」
なんだかんだいって、こうやってふわっと笑う南が一番可愛くて。
その笑顔を見ただけで幸せで満たされる。
一方で、下半身が一層熱を持ち始めていよいよ辛くなってきた。
いつもならもう少し余裕があるんだけど、やっぱりさっきの吸血行為の影響が大きいみたいだ。
本当ならぐずぐずに甘やかしたいところだけど、俺のほうがもちそうにない。
「もっと、すごいの……」
――ちょうだい。
耳元で囁かれて、全身がぞくぞくっと震えた。
こんなに小悪魔みたいな煽りを連発するのは初めてだ。
やっぱり、南がこんなに積極的なのも吸血鬼、だからなのかもしれない。
今日はなにもかもイレギュラーで、無事に朝を迎えられるか少しだけ心配になった。
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