165 / 238
【番外編】キスチョコレート
5月23日。
今日はキスの日だということをクラスの女子たちの話で知った。
女子ってこういうの好きだなーと思いつつ、そっかキスの日か……と思う自分がいた。
八雲さんとのキスは好きだけど、自分からするのは恥ずかしい。
八雲さんは何も言わないけど、オレはたぶんキスがへた。
そもそも交際関係もったのはもちろん八雲さんが初めてだし、いつも舌技にとろんとしちゃって追いつくのでいっぱいいっぱいだから上達するわけがない。
でも、たまにオレからキスをするとすごく嬉しそうにしてくれるから…もう少しオレからしてみようかなと思った今日この頃。
「すー……」
今日帰りに寄りますとメッセージを送り、鍵開けておくから入っていいよとの返信をもらった1時間後。
八雲さんの部屋に入ったら、ソファーで気持ちよさそうに寝ていた。
スマホを持っているから、寝落ちたんだと思う。
普段は顔が整いすぎて八雲さんの視界に入りながら見るのが恥ずかしいんだけど、今はぐっすり眠っているからいくらでも見ることができる。
八雲さんに限った話ではないけど、人の寝顔を見てるといたずたしたくなるのはなんでだろう。
あんまりちょっかいすると後が怖いし……っていろいろ考えてたら、そうだ今日はキスの日だってことを思い出した。
キスの日なんだから寝てる八雲さんにキスしても、何も問題ないはず。
もし万が一目を覚ましたとしても、言い訳になるし。
思い立ったら即行動。
いつ起きるかわからないから、やるなら早くしないと。
でもいきなり唇にするのは恥ずかしいから、まずはほっぺ。
もし八雲さんが起きてる時だったら「そこ?」って意地悪く笑いそう。
すぐに唇を離して、八雲さんの寝顔を見つめる。
何回見ても飽きないぐらいかっこよくて、顔の輪郭をなぞって髪の1本1本目で追う。
長いまつ毛、形のいい鼻、女優さんみたいな潤いのある唇――。
ひとつひとつ追ってたらたまらなくなって、これだけで胸がきゅんしゅんして。
さっきより少し大胆に、ちゅ、ちゅとほっぺにキスをする。
「んー……」
八雲さんの眉間が少し動いて、もぞもぞと寝返りをうってうつ伏せになってしまった。
「……キスできない」
不満の言葉を口にしても、そんなの八雲さんの耳に届いてるはずもなく、すぅすぅと気持ち良さそうに寝続ける。
しょうがないから顔にキスすることを諦めて、首筋にキスマークを付けてみようと思ったオレは首にかかる髪の毛をそっと手でどかす。
いつ起きてしまうんだろうとドキドキしながら、ゆっくり首に吸いついた。
「ん……」
いつも八雲さんがやってるみたいにしてるつもりなんだけど、やっぱりうまく付かない。
うっすら色づいたそこを見て、少しむくれる。
どうせオレはへたくそだし……八雲さんほど経験もしてないし……。
胸の中が黒いものでぐるぐる渦巻いてきて、慌てて思考を変える。
このままだと自己嫌悪で窒息しそう。
「もう行っちゃうの?」
「わっ、!?」
気分を変えに外へ出ようとその場を離れようとしたら、腕をぐいっと引っ張られて、反動でベッドに倒れこむ。
びっくりして八雲さんを見たら、にやにやと意地悪い笑みを浮かべてて、内心で最悪と呟いた。
「あれだけじゃ、足りないかな」
「だって……」
「うん、だって、なに?」
黒くなったこの心を八雲さんに知られたくなくて、ぐっと口を閉じる。
「俺に言いたくない?」
優しい声で聞かれて、泣きそうになるのを堪えながらこくんと頷いた。
八雲さんに幻滅されるのは、かなり辛い。
「気にしなくていいって言ってるのに」
「オレの考えてること、わかるんですか?」
「南は可愛いから、すぐ顔に出る」
「……次からマスクしてきます」
「それは困るかな。すぐキスできなすなるけど、それでもいい?」
ちょっとだけ考えて、すぐに首輪横に振る。
八雲さんとのキスは大好きだし、いつでもしてほしい。
「素直で可愛い」
そう言って、優しく頭を撫でてくれる。
八雲さんに撫でられるのも大好き。すぐすりすりって甘えたくなっちゃう。
「今日のキスは南からしてよ」
「え……」
「せっかくさっきまでしてくれてたんだし、ね?」
「あの……でもオレ、ほんとに、その……うまくないですよ」
「ほーら、そんなの関係ないだろ?俺のことすきって思いながらキスしてくれれば、俺は嬉しいよ」
八雲さんてどこまでも優しい。
さっきから胸がきゅんしゅとドキドキを繰り返してて、そろそろ爆発するかもしれない。
オレはその日、ずっと八雲さんの隣にぴたっとひっつき虫になって、手の甲やほっぺにキスをしまくった。
夜、倍返しだと言わんばかりにすごくえっちなキスをしてきたから、何事もほどほどにしておこうと誓った。
ともだちにシェアしよう!