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テイクアウト +
大きな目に涙を溜めて、悠太が家を出て行った。
「くそ……」
悠太を怒らせるつまりなんて毛頭なくて、ただ少しからかってやろうと思っただけなのに。
喧嘩の原因は、完全にこっちに非があった。
冗談のつもりで言ったことが、俺の予想以上に悠太を傷付けてしまったらしい。
リビングで悠太とテレビを観ていた時に、何気なく「そのうち女がいいって言いだすんじゃね」と言ってしまったのが原因。
「そんなことないし」とか「八雲さんはオレのこと大好きだから」とか、そんな惚気が返ってくるものだと思い込んでいた。
さっきまで笑っていた悠太が一瞬で表情を凍らせた。
「なんで……そういうこと言うの」
「なんとなく」
「なんとなく?」
少し泣きそうになりながら睨んできて、ここでやっとヤバイことを言ってしまったんだと内心慌てた。
冗談だよと笑いながら言ったのが、悠太の逆鱗に触れて。
「最低」
静かに言い放って、リビングを出て行く。
その後聞こえた音は階段を上る音ではなく、玄関のドアを開ける音だった。
喧嘩というより、俺が一方的に悠太を傷付けて怒らせてしまったわけ。
こんなに怒る悠太は珍しい。
血を分けた兄弟なのに八雲に頼るしかなくて情けない。
翌日、八雲から「言ったのがお前じゃなかったら縁を切ってた」「次はない」という内容のメッセージが届いた。
あんなに悠太を怒らせたのにお人好しだ。もっと罵詈雑言の嵐だと思っていたのに。
俺は「悪かった。ありがとう」「悠太をよろしく」と返信をした。
その後は既読がついてそれっきり。
昨日のことを深く反省して、今日悠太が帰ってきたら美味いと評判のラーメン屋に連れて行こう。
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