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桃の花 1

この前の文化祭で柳に「女装プレイはどうだったか」と聞かれた時に、オレが「最高だったよバカ」と勢い余って言ったことを動画に撮られ、秒で八雲さんへ送ってしまった事件があったかと思う。 オレの知らないところで、柳は制服や動画を提供した代わりに飯を奢ってほしいって八雲さんに言っていたらしい。 まったく図々しい……というか、こういうことに抜かりがないあたりさすがだと思った。 ということで、今日は八雲さんの奢りで夕飯をご馳走になる。 18時に学校近くのレストランにっていう連絡を貰ってて、柳とさっきまで学食で時間をつぶしてたんだけど、17時半には閉まると言われちゃったから早いけどもうレストランに行って席をとってようという話になって。 言われたレストランまで来たのはいいんだけど……。 オレたちが案内された奥の席に、八雲さんがいたのが見えた。 しかも、向かいの席には女の人が座っている。 後ろ姿だから顔はわからないけど、たぶん、いや絶対オレの知らない人だ。 「おい、あんま見るなって」 「つい……ていうか、ねえ、あれ、誰」 「彼女じゃね……嘘だよ嘘だって、そのコップから手離しな割れそう」 言われて初めて、オレが水の入ったコップをギリギリと握りしめているのがわかった。 手を離せばよほど力を入れてたのか、手のひらが真っ白。 「あのさ、わかってると思うけど八雲さんに限って浮気とか絶対ないから」 「わかってる」 「なんかあの人に用事でもあったんだろ」 「わかってるけど……」 柳が呆れたようにため息をついた。 八雲さんが浮気しないってことは、オレが一番よくわかってる……つもり。 女の人と一切話すなって言うつもりはさらさらないけど、1対1で話しているところ見てしまったら少なくともいい気分にはならないわけで。 女の人と会うときは事前に連絡してとか、そういう束縛っぽいこともできればしたくない。 というより、知りたくないって気持ちのが大きいかも。 こんな場面に遭遇するなら、大人しく学校で待っておけばよかった。 「1回店出るか?」 「うーん……いい、待つ」 「りょーかい」 「柳って優しいよね」 「気づいちゃった?惚るるなよ」 「一言多いんだよいつも……」 柳はイケメンだし、背も高いし、社交性もすごく高いのにこの余計な一言があるせいで、女子からはいい友だち止まりになるらしい。 「優しいけど……すごくもったいないよね」 「おめぇこそ一言多いわ」 約束の18時まで20分ぐらい。 柳はスマホでゲームを始めたし、時間までちょっと寝てよう。 テーブルに肩ひじをつき、手の甲にあごを乗せる居眠りスタイルの体勢になって目を閉じた。 うつらうつらと、頭が落ちるのがわかる。 テーブルに伏せたら完全に寝ちゃいそうと、夢と現を行ったり来たりしている感じ。 すぅっと眠りに入りそうな時に、がくっと大きく頭が下がった。 「あっぶな」 「んー…?」 「コップに顔突っ込む気かよ」 顔を上げると、コップをどかすつもりだったであろう柳の手が差し出されてた。 コップに当たる寸前で止まることができたみたいだ。 「もうすぐ18時だし、そのぽやっとした眠そうな顔なんとかしとけ」 「ん……」 「しゃきっとしろよな」 頭が重くて、なかなか目を開けることができない。 「ちょっと待って、今起こすから」 「しょうがねぇな……」 すっと柳の手が伸びてきて、顔にかかってた髪を耳にかけられる。 次に身体を少し乗り上げて顔を覗かれて。 突然のことでびっくりしたオレはすぐに言葉が出なかったけど、顔が近いと文句を言おうとしたところで柳は離れてイスに座りなおす。 「ヨダレは大丈夫そう」 「当たり前だわ」 確認してくれるのは優しいと思うけど、それは多い方の一言だ。 でもおかげ頭がクリアになってきた。 八雲さんのところに行く前にトイレに行こうと思って、席を立とうとしたら声をかけられた。 「……何してんの南?」 はっとして見上げたら、ちょっと眉間に力が入ってる八雲さんと、一緒にいた女の人が立ってた。

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