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それでもずっと 3

ついにやってきた11月17日、オレの誕生日。 昨夜は楽しみすぎて、ずっとドキドキして寝つきがちょっと悪かった。 洋服も髪型も、朝起きた時から何回も鏡の前でチェックをしたし、母さんにも変なところがないか見てもらったからばっちり。 「あれ?はるくん着ぐるみパジャマは?」 「着ないってば!」 「本当にいらないならゴミに出しちゃえばよかったのに」 「それは、だから……売れるかもしれないじゃん」 「ふーん?まあ、そういうことにしておいてあげる」 八雲さんもそうだけど、兄ちゃんも何でもお見通しですよって言い方が悔しい。 パジャマをもらったときは本当に嫌だったけど、しつこく「八雲は絶対喜ぶ」って吹かされてたら、たしかに喜びそうとか思い始めてしまったわけで。 さすがに今日のお出かけには着て行けないけど、別の機会のときに……とか考えてた。 気がついたらもうあと5分で家を出なきゃいけない時間になってて、最後に全身のチェックをして待ち合わせ場所に向かった。 集合場所の駅前広場まで来ると辺りをぐるりと見まわしてみる。 八雲さんはまだ来てないみたい。 わかりやすい場所に移動しようと思って歩き出したら、八雲さんのオレを呼ぶ声が聴こえた。 振り返れば、車の運転席から出てきた八雲さんがいた。 いつもと違うシチュエーションにドキっとして、八雲さんの元まで駆け寄る。 「え、あの、この車って?」 「俺のだよ」 「知らなかった……」 「まあ、言う機会とかとくになかったしな」 ぴかぴかに光る車、汚れや傷は見当たらない。 窓の外から見る限り、車内もキレイで余計なものが一切ない。 車色もブラックで、八雲さんらしくてふふっと笑った。 荷物を後ろの座席に置いて、助手席に乗り込む。 八雲さんも運転席に乗り込んできて、シートベルトを閉めた。 「なんか…めっちゃドキドキします」 「実は俺も」 ハンドルを握った手にこてんと頭を置いて、困ったように笑う姿も超かっこいい。 これで運転している姿の八雲さんをこれから見るのかと思うと楽しみだし、ドキドキに耐えられるのかっていう緊張もある。 「同じですね」 「出発前から、そんなに可愛いこと言わないで」 助手席のほうに手をついて、八雲さんが近づいてくる。 察したオレは、目を瞑った。 ちゅっと短いキスをしてすぐ離れた八雲さんは、珍しくちょっとほっぺが赤く見えた。 「行こうか」 「行先はどこなんですか?」 「それはまだ内緒」 車は八雲さんがアクセルを踏んだことによって動き始める。 目的地に到着するまでの間、オレは横目で八雲さんをずっと見ていたのだった。

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