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それでもずっと 9

え?と耳を疑った。 八雲さんの放った一言が、ずっと頭の中をぐるぐるしてる。 オレの聞き間違いじゃなかったら、たしかに八雲さんは「俺の想い人」って言った。 いや、でもストレートには言ってないし、これだけだと恋愛感情が含まれてるかどうかは判別しにくい。 でも世間一般的に考えたら、そういう、ことだよね? だんだん顔に熱が集まってきて、血液がぼっと燃えそう。 いきなりそんなカミングアウトをされるとは、これっぽちも考えてなかった。 暑くて恥ずかしい。冷房をいれてください…。 ここで何か気の利いた言葉を言えればいいんだけど、あいにくパンクしかかってる頭じゃあわあわするので精一杯。 そんな様子を見ていた八雲さんが、隣でくすっと笑った。 「話で聞いていたよりずっと可愛らしいのね」 「そうでしょう」 「ますます八雲とは正反対じゃないか」 「そこが好きなんだ」 これは受け入れられてる、ってこと? 初対面でいきなり恋人ですって紹介されて、しかもそいつは男で、八雲さんも男で、普通ならびっくりする場面のはずなのに、和やかな雰囲気に包まれてる。 「南、突然でごめん。実はここに来る前にちゃんと伝えてあったんだ」 「なんで先に教えてくれなかったんですか…!」 「先に言ったら絶対がちがちに緊張しちゃうだろ?」 「し、しないかもしれないじゃないですか……」 「あはは、お前は緊張するよ」 オレを安心させてくれるように、普段と変わらずに接してくれる。 いつものように頭をぽんと撫でられて、恥ずかしいけど顔が緩みそうになる…。みんな見てるから、ここはガマン。 八雲さんだけじゃなくて、福之助さんも八千代さんも秋葉さんも、微笑ましそうにしてるのがくすぐったい。 誤魔化すように湯のみを手に取って、ふーふーと冷ましてから口にする。 「え、あの、おいしいです。全然粗茶じゃないです」 「お口に合ったようで安心しました」 ほら、その笑い方とか軽く頭を下げてるだけなのにすごくキレイ。 身が縮むとはまさにこのことなんじゃないかって内心思った。 「南さんはすごく素直な方なんですね」 「そうでしょう?本当にいい子ですよ」 秋葉さんにうちの子自慢する八雲さんが少し面白い。 けど恥ずかしい。 さっきから感情メーターが大きく変動しまくってて、そろそろパンクしそう。 しばらく5人で他愛もない談笑をして、少しずつ心と頭が落ち着いてきた。 緊張しすぎてまわりが見えてなかったけど、この部屋にも大きな書道の掛け軸や額縁が飾られてる。 家の中にいくつかある中でも、なぜか強く引き付けられる額縁があった。 そこには『玄遠』と書いてある。 「あれ……」 気がついたらその額縁のほうを指さしていて、慌てて手を引っ込める。 なんとなく、指でさしちゃいけない気がした。 「ははは!あれが気になるのか」 「はい、あの、どういう意味なのか全然わかんないんですけど、勘で」 「あれはね、八雲が書いたものなの」 「え!?」 びっくりして八雲さんのほうを見ると、少し居心地が悪そうな顔をしていて。 「八雲さん、ほんと?」 「……ほんと」 「えー!字うまいなと思ってましたけど、本当にうまいですね」 「あー、まあ、うちの家は書道一家だから」 「……書道一家?」 確認するように福之助さんと八千代さんのほうを見ると、特に否定もしないから本当なんだと悟った。 よくわからないけど、格式が高いお家なんじゃ…。 なんか、今日はびっくりの連続でさすがにキャパを超えそう。

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