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それでもずっと 10
3人ともやることがあるらしくて、最後にゆっくりしていってと言葉をもらってそれぞれ席を立った。
オレと八雲さんも、お茶をもう1杯飲んだあと部屋に戻ってきた。
2人掛けのソファーに並んで座る。
オレと八雲さんの間にできた僅かな隙間が、なんだか少し寂しい。
「こっちおいで」
ふわっと笑った八雲さんは、両手を少し広げて呼んでくれる
八雲さんが子どもの頃つかってたこの部屋で、その腕の中に収まるのが少し恥ずかしい。
でも、オレの寂しい気持ちにすぐ気がついてくれるのがすごく嬉しくて、それが表に出ないようにゆっくり近づいた。
「はあ…緊張した…」
「え?緊張?」
「すごいした。会うの久しぶりだし、本当に俺たちのこと受け入れてくれるかわからなかったし」
八雲さんの俺たちっていう言葉に心臓がドキっとする。
オレが受け入れらるかじゃなくて、2人揃って受け入れてくれるかどうかを心配してくれてたんだ…もうそれだけで嬉しい。
「嬉しいです、すごく」
八雲さんの背中に腕をまわして、ぎゅっと抱きしめる。
心臓の音がいつもより少しだけ大きくて、本当に緊張したんだなってことがわかった。
「ドキドキしてますね」
「俺だって緊張するからね」
「うん…嬉しい」
「はーもう、今日も可愛いな」
ぎゅっと抱きしめ返してきて、珍しく甘えるように顔を首元に埋める八雲さんのほうが可愛い。
運転で疲れたうえに、久しぶりのおばあさんおじいさんに会って尚更だったんだと思う。
いつも八雲さんに任せきりだなって申し訳なくなるんだけど、そんなこと気にするなって言われるの目に見えてるし、そうすることが八雲さんの愛情表現っていうのもわかってる。
年の差なんて埋められるわけがないし、甘えられるうちは甘えておこうかなって思えるようになった。
オレも少しは成長してるかな?
「八雲さん」
「うん?」
「八雲さん」
「あはは、なに?」
「んー…好きだなって思って」
「あのさ、ここでそう可愛いこと言われると困るんだけど」
「……しないんですか?」
えっちなことしたいですって言ってるようなもので、言うのを少し躊躇った。
だけど、ちょっと意地悪してみたくなって。
「ここではゆっくりするつもりだったけど、南から誘われたら断れないかな」
「べつに、聞いただけで誘ったわけじゃ……」
「じゃあしなくていい?」
「それは、意地悪」
八雲さんは顔をくしゃっとさせて笑う。
オレはその笑顔が大好きで、今でも見るたびに心臓がときめく。
「はあ……お前のことになると余裕なくなる」
抱きしめ合ってた身体を離して、八雲さんはおでこをこつんとくっつける。
「余裕のない八雲さんも好き」
「もう、ほんと、それ以上はだめ」
「前にも言ったことありますけど、オレ、そんなにいい子じゃないよ」
オレたちが付き合い始めた頃は、八雲さんはオレのことをいろいろ考えてくれててすぐ手をだしてこなくて。
今では信じられないけど、オレが焦れったくなるぐらい八雲さんは菩薩だった。
「わかった、でも今は本当にだめ」
ちゅっと触れるだけの軽いキスをして、すぐに離れていった。
八雲さんを困らせないように、名残惜しそうな顔をしないように引き締めて。
「俺がここに南を連れてきたのは紹介したかったのもあるんだけど、もうひとつ大事なことがあって」
オレは黙って頷いて、次の八雲さんの言葉を待つ。
「けじめでもあるんだ。俺の話、聞いてほしい」
そんなの、オレが否定するはずなくて。
もう一度黙って頷いたら、八雲さんは「ありがとう」と安心したように笑ってぽつりぽつりと話し始めた。
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