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それでもずっと 14
夕食後、八雲さんが連れてきてくれたのは鳳条家より少しだけ坂道を登ったところにある、こじんまりとした神社だった。
街灯がなくて真っ暗だから、スマホのライトを照らしながら歩く。
拝殿前まで歩いてきて、お財布から小銭を取り出してオレに手渡してきてくれた。
「後で返します」
「大丈夫。その代わり、戻ったら南からキスして」
「ちょっと…不意打ちでそういうこと言うの、ずるい」
もう、八雲さんの不意打ちに全然慣れないオレの心臓をなんとかしてほしい。
いつも言われてるようなことなのに、どうしてこんなにドキドキしちゃうんだろう。
八雲さんはオレの反応を見て幸せそうに笑ってて、もうそんな顔見ちゃったら何も言えなくなる。
神様の前で声に出すのが恥ずかしかったから、「すき」と口だけ動かす。
暗くて見えにくいはずなのに、ちゃんと八雲さんに伝わるのがすごい。「おれも」って口パクをしたのがわかった。
お賽銭を入れて、まず二礼二拍手。
八雲さんの人生が幸せでありますように。できればその幸せには、オレがずっと関わっていたい。でもでしればでいいです。八雲さんの幸せが第一。
最後に一礼して、終わり。
参拝なんて初詣の時とか旅行の時ぐらいしかしないかも。境内の空気って、澄んでて気持ちよく感じるから不思議だ。
「南」
八雲さんも参拝が終わって、拝殿前の階段に座った。
山中の夜はめちゃくちゃ寒くて、肩を寄せ合うようにくっつく。
「よく来てたんですか?」
「うん。ほぼ毎日来てたかな」
「そんなに?」
「その日あったことをよく報告してた。あとはひとりになりたい時とか」
「やっぱり八雲さんって優しい」
「お前には負けるよ」
ほら、こういうところ。
分別がすごくいいというか、ドSですごい攻めてくるくせにこういう時は謙虚。
大人の対応。好きになるところしかない。全部好き。
「南、上見て」
「上?……あ」
八雲さんに促されて顔を上げたら、満天の星空。
真っ黒な空に数えきれないほどの星が輝いてて、ダイヤが散りばめられてるみたい。
「すごい……」
「星空が本当に綺麗に見えるんだ」
「オレ、天の川初めて見ました」
「流れ星も見れるよ」
「え!あ!八雲さん!見て!」
一瞬だけだったけど、たしかに流れ星が見えた気がする。
いや、絶対流れ星。キラっと一瞬だからこそ輝線がよりキレイに見えるんだろうな。
「あれ?流れ星って3つお願い事唱えると願いが叶うんでしたっけ?」
「そう言われてるな。お願いしたいことあるの?」
お願いしたいこと…って、もちろん八雲さん絡みになるんだけど、もうオレの願いって半分かなったんじゃないかな。
八雲さんの昔の話を聞いたら、今これだけ八雲さんが笑えてることがもう奇跡なんだなって思ったから。
八雲さんに思ったことを話してみたら、うんうんって頷いてくれた。
「だから前から言ってるだろ?俺のことを好きになってくれてありがとうって」
「その言葉の本当の意味を知ることができて嬉しいです」
「この前大也に言われたんだけどさ」
「はい」
「八雲って南の前でしか笑わないよなって」
「え……」
「びっくりだろ?自分では全然意識してなかったんだけど」
オレと一緒にいるときの八雲さんは表情豊かで、かっこいい時も、くしゃって笑う顔も、寂しそうな顔も嬉しそうな顔も、怒ってる時の顔もいっぱい見てきた。
今まで見てきた表情が本当にオレだけのものってことになる。
なにそれ、すっごい嬉しい。
「お前、にやにやしすぎ」
「だって…これはしょうがない」
「……なんか恥ずかしくなってきた」
少し顔を赤らめてむくれる八雲さんが可愛くて、心臓がきゅんって反応する。
好きすぎて胸が痛い。
好きが溢れて、それを八雲さんに伝えたくて、身体をぐっと近づけて、ちゅっとキスをして。
「好きが溢れました」
「待って…お前なんでそんなに可愛いの…」
さっきよりも赤くなったほっぺで驚いてる八雲さんを見て、ちょっとしてやったり感。
やっぱりずっとずっと八雲さんと一緒にいたいなって、星空を見ながら思った。
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