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それでもずっと 23
目がさめると、外で鳥がチュンチュン鳴いてるのが聴こえた。
カーテンから日差しが漏れて、もう朝がきたんだとのそのそと起き上がる。
一緒に倒れこんで寝たはずの八雲さんは、もう起きているのか部屋の中にはいないみたい。
トイレをすませて、顔を洗って、歯磨きして、着替えようと寝間着を脱いでるところに扉が開く音がした。
「あ……お着替え中のところ、すみません」
「うわ!あの、ごめんなさい、すぐ着替えます」
てっきり八雲さんだと思ってたのに、入ってきたのは秋葉さんだったみたいで。
八雲さんに散々愛された痕を隠しながら手早く着替えた。
「よく眠れましたか?」
「はい!もう、ぐっすりで…」
「身体も大丈夫ですか?」
「は……」
「ここ、見えてますよ」
秋葉さんはにっこり笑いながら自分の首を指でとんとん叩く。
慌てて手で首を隠すけど、目の前にいる秋葉さんは既視感がありすぎる意地の悪い顔をしてて、八雲さんが本当にここで過ごしたんだなって納得がいった。
「ご、ごめんなさい…」
「貴方が謝ることじゃない。八雲のせいです。大丈夫ですか?無理されてませんか?」
「それは大丈夫です…!むしろ、あの…すごく、大事にされてるって感じるので…」
自分で言ってて恥ずかしくなって、語尾が小さくなっちゃって。
ちらりと秋葉さんを盗み見れば相変わらずにこにこしてるし、なんだかいたたまれない気持ち…。
「本当に可愛らしい人ですね」
「ありがとうござ――」
はっと気がついたら秋葉さんがすぐ近くにまで来てて、白くて長い指が伸びてきた。
びっくりして声すら出すことができなくて、そのまま白い手が頰に添えられる。
「八雲が惚れるのもわかります」
「は、」
秋葉さんの掠れた声が耳に響いて、そこから甘く溶けていく感覚。
「この痕、南くんは気がついてないかもしれないけれど、八雲の牽制ですね」
「ちょっ、と」
頰に添えられた手は滑るように下に降りて、八雲さんに付けられたキスマークのあるところで止まる。
「ここまで独占欲出されると、ちょっかい出したくなる」
「んっ…!」
親指でキスマークのあるところをなぞられて、くすぐったさに声が漏れた。
なに、なに!?秋葉さんってミステリアスすぎてわかんない。
急に距離を詰められてパニック状態。
距離をとりたいのに、八雲さんが慕ってる人って思うと突き返せない。
「抵抗、しないんですか?」
「し、します…!」
催眠術にかけられてるみたいに、体が動いてくれない。秋葉さんの漆黒の瞳に吸い込まれそうな錯覚に陥る。
恐怖と危機感と、ありとあらゆる警報が頭の中で鳴り響いて、お腹に力を入れて大声を出そうとしたとき。
「秋葉さん、そこまでにしてもらっても?」
ドアのところに、顔は笑ってるのに目元と口元が引きつってる八雲さんが立っていた。
「思ったより早かったですね」
秋葉さんはぱっとオレから手を離して、一歩後ろに下がった。
安堵のため息をつくと、八雲さんがオレを庇うように間に立ってくれた。
「俺の南であんまりからかわないでください」
「すみません、八雲の反応が見たくて、つい」
「秋葉さんのそういうところ、本当に侮れない」
「お陰でいいものが見れました」
さっきまでの妖しい笑顔とは打って変わって、秋葉さんは無邪気に笑った。
なんだろう…秋葉さんのことを知れば知るほど、なるほど今の八雲さんが形成されたんだなってよくわかる。
「それより朝ごはん。南、お腹減ってる?」
「え、あ、はい。それなりに」
「準備するから、南は居間で座って待ってて」
「わかりました」
すぐに察したオレは、八雲さんと秋葉さんを残してひとり居間に向かった。
後から聞いた話だけど、いくら秋葉さんといえど相当怒ったらしく、次はないとドス声を響かせたとかなんとか…。
居間にいた福之助さんと八千代さんに挨拶をして、八雲さんたちが来るまでの間、他愛もない話をした。
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