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それでもずっと 25

「渡すタイミング迷っちゃってごめん」 ずっと南に渡すために隠し持っていた誕生日プレゼントを、帰り支度を終わらせてもうすぐ出るっていうところでやっと渡せた。 こっちに来てからなんだかんだ渡せなかったから、ほっと一安心。 本当は風呂上りのゆっくりした時間でって考えてたんだけど…… 「ありがとうございます!そういえばオレの誕生日だってこと、すっかり忘れてました」 恥ずかしそうに笑いながら、南はちゃんと両手でプレゼントを受け取ってくれる。 俺は南のこいうところが好き。 開けてもいいですか?って問いかけに、もちろんと頷いた。 丁寧な手つきでゆっくりラッピングを紐解いていく。 「キーケースだ」 「そう。中も見て」 「中?……あ!」 南は目を見開いて、嬉しそうに、だけどちょっと戸惑ったように俺を見上げてきて。 「あの、これ」 「俺の部屋の鍵。本当はずっと渡そうと思ってたんだけど」 「いいんですか…?」 「俺にいちいち連絡したりピンポンしたり面倒だろ」 「そう、だけど…」 「お願い。持ってて?」 「うっ…」 「ずるい?」 「ずるい…」 南が言い返せないとき、だいたい「ずるい」って言ってくるんだけど、実はそう言われることが好き。 言い方悪いかもしれないけど、俺が南のこと支配してるって感じがして堪らない。こんなこと絶対言えないけど。 南のことを喜ばせるのも、困らせるのも、泣かせるのも好きだから生粋のサドだ。 「これからはいつでも来ていいから」 「うわ…八雲さん、その笑顔超かっこいい…」 「惚れた?」 「一瞬一瞬で惚れ続けてます」 こんなこと本気で言えるのって、南だけだと思う。 まさかの嬉しい言葉をもらって一瞬言葉が詰まってしまった。 でも南の前ではかっこいい八雲さんでいたいって思ってしまうから、なんとか動揺を抑え込む。 「南それ、超可愛いんだけど…キスしてもいい?」 「……ちょっとだけなら」 南は目を閉じ、可愛く唇をちょっと出してきて、いわゆるキス待ち顔をする。 しばらく堪能していたいけど、今は帰らなくちゃいけないから目に焼き付けておく。 「あとでいっぱいするから」 キスをする前に耳元で囁いて、触れるだけの口づけをした。 目を開けた南は想像通りの顔をしていたから、思わず笑ってしまった。 「これからはもう少し顔を見せなさい。南くんも一緒にね」 「ありがとうございます八千代さん」 「今後はせめて連絡ぐらいよこせ」 「だから音信不通で悪かったって…」 「八雲に泣かされたらすぐ連絡してくださいね」 「待って、秋葉さん」 「冗談です。まあでも、世間話程度の連絡でもなんでも、いつでも歓迎します」 「はい、ありがとうございます」 じいさんもばあさんも秋葉さんも、みんな南のことを気に入ったようだ。 受け入れられてほっとしてる半面、なんだか居心地が悪い。 「お世話になりました。また来ます」 「正月顔見せに来るよ」 3人は姿が見えなくなるまで見送ってくれて、本当にもっと早く顔を見せておけばよかったなと反省した。 「あの、すごくすてきな誕生日でした。八雲さんありがとう」 「俺こそ、南の誕生日なのにたくさん思い出もらっちゃった」 「それはもっともらってください」 「そんなこと言っていいの?容赦なくもらうけど」 「でも、その代わりにオレにもたくさんください」 「はー…今すぐ抱きしめたい」 「あ、今は運転に集中でお願いします」 「急にドライになるところも好きだよ」 来年の南の誕生日には何してあげようかな、なんて、クリスマスもバレンタインも俺の誕生日もすっ飛ばして、もう1年後のことを考えていて。 そんな自分がおかしくて、でも心はすごく暖かくて、幸せだ。 これから1年、南が振り返ったときによかったと思えるような時間を過ごせますように。

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