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自覚 4
南に会いに中学校まで向かった。
なんとなく、南がオレに気がついて来てくれるんじゃないかって思ったけど、そんなに都合よくいかないことを知ってる。
しばらく待ってみて来る気配がなかったら、大人しく放課後を待とうと思った。
10分ぐらい待っていたと思う。
そろそろ怪しまれないうちに離れようとした時、学校の中からこっちに真っ直ぐ走ってくる南を見つけた。
一生懸命オレのところまで走ってくるその姿に、トドメを刺された気持ちだった。
殴られる覚悟で話したことも、南は「バカ」と一言だけ言って許してくれた。
そして、こんな俺に純粋な「好き」を伝えてくれる南に、俺はとっくに絆されていたんだと自覚をした。
好意は素直に嬉しいし、できることなら応えてあげたい。
でも、南はまだ中学生だ。
まだまだ多感な時期だし、正直その年齢で同性と付き合うことのリスクは考えざるを得ない。
俺を好きになってくれたきっかけは憧れからだろうし、この先本当に好きと思える人が現れない可能性はゼロじゃない。
南のためを思うなら、まだ受け入れるべき時ではないなと思った。
南が学校を抜け出した後、一緒に向かった先は右京さんのところだった。
彼にもたくさん迷惑をかけたし、俺の非行を謝らなければいけない。
「銅さんも矢吹さんも立花さんも、みんなすごく心配してましたよ」
「うん…ちゃんと謝らないとな」
「そうですね。銅さん、怒ったら怖そうですね」
南は冗談のつもりで言ったかもしれないけど、実際、怒ったら一番怖いのは右京さんだ。
静かに淡々と詰め寄ってくるところが、背筋が冷える。
優しい人であるのは間違いないけど、意外と厳しく沸点もそれなりに低い。
「そこに座りなさい」
案の定、右京さんのところへ向かったら笑顔でそう言われた。
背後にメラメラと燃え盛る炎が見える。
南も一緒にいたのは意外だったようで、学校に戻れとも特に言わなかったけど少しだけ違うところにいてほしいと言った。
「説教が終わったら声をかけます」
「でも……」
「大丈夫ですから」
南は何か言いたそうに口を開いたけど、右京さんの無言の圧力に負けたのか、頭を下げて出て行った。
「南は本当に優しい子ですね」
「そう思います」
「自分のしたこと、本当にわかってますか?」
「はい。右京さんにもひどく迷惑をかけました。申し訳ありません」
床に両手をついて、深々と頭を下げた。
謝罪のために土下座をする日がくるなんて思ってなかったから、変に緊張をした。
右京さんがどう反応するかも読めなくて、額に汗が浮かぶ。
「顔をあげていただいて結構」
「はい」
ゆっくり顔をあげて右京さんを見上げる。
「その様子だと、もう誰かに注意を受けていますね?」
「はい……その、南の兄から」
「なるほど、だいたいのことは察しました。まったく…」
右京さんは呆れたようにため息をついて、腰に手を当てた。
「もう十分反省しているようなので私からは特に言いませんが…もう貴方ひとりではないことを自覚しなさい」
ひとりじゃない。
その言葉が、深く俺の胸に突き刺さって目頭が熱くなった。
頼りになる右京さんがいて、うるさいけど一緒にいて楽しいと思える矢吹と立花、正面からぶつかってきてくれる大也、そして俺のことを好きでいてくれる南。
「はい。今は、右京さんたちがいて恵まれているなと思います」
「そう思えるなら大丈夫ですね。次やったら……わかりますね?容赦はしません」
「肝に銘じます…」
右京さんほど絶対零度の笑顔が怖い人はいない。
今確信した。
「矢吹と立花も毎日ここに顔を出しています。後でちゃんと謝るように
「はい」
「それまでは、ここでゆっくり過ごすといいでしょう。南を呼んできなさい。何か食べますか?」
「あの、じゃあ、お言葉に甘えて軽いものを」
「用意します。後ほど居間まで」
弓道場と右京さんの自宅は繋がっていて、よくお邪魔させてもらっている。
これから南を呼んで、右京さんの家でゆっくり過ごして、矢吹と立花から怒られて、その傍らで南は笑っていて…。
この先怒るであろうことを想像したら、柄にもなく楽しみになって。
「なんかおかしいことありました?」
「いや…うん。いい人たちに恵まれたなって」
「オ、オレもそう思います!」
「お前、本当にいい子」
嬉しそうにぱっと顔を輝かせた南が愛おしくて、頭をわしゃわしゃ撫でた。
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