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決意 3

あの日以来、俺に対してだけ妙にぎこきなくなった南に、俺はどうしたものかと頭を悩ませていた。 誰かに対してここまで執着というか、関心を持ったことがないから、正直こういうときにどうしていいかわからなくて。 癪だけど、本当に癪だけど、矢吹と立花に相談してしまった。 アドバイスした結果、矢吹も立花も口を揃えて「鈍い」と言われる始末。 南のためとはいえ、俺の貴重な時間を返してほしい気分だ。鈍いってなんだ。 俺のどこが悪いのかわからないけど、とにかく南に近寄ろうとすればするほどぎこちなくなっていくもんだからお手上げ。 今までは向こうから寄ってくる女ばかりだったから、逆に避けられるとどうしていいかわからないのは正直なところ。 ということを言うと引かれるだろうなというのは、さすがの俺でもわかるから誰にも言ってない。 そんなこんなで、南への接し方がわからなくなってから数ヶ月。数ヶ月。 態度を改めのか、以前のように南のほうから来るようになった。 一体なにがあったのかは聞かないでおく。 たぶん、俺と同じで矢吹や立花に相談したと思うから。 ある時の南は、 「八雲さん」 「なに?」 「呼んでみただけ」 「なにそれ」 「迷惑…?」 「というより、可愛いかな」 南以外にやられたらどついてる。 またある時は、 「南、車道は危ないからこっち」 「オレも一応男なんですけど…」 「こういう時は年上に甘えな」 と、ど直球に好きを伝えてくる。 こんなに一生懸命に可愛く「好き」を言われて、絆されないわけがなくて。 「俺も好きだよ」と伝えるのは簡単だけど、南はまだ中学生で、思春期真っただ中で、俺と付き合うことによって好奇の目に晒されたくなくて。 されたく、なかったはずなのに。 気がついたら、目は南の姿を探しては捉え、いつも南のことを考えるようになってた。 南のためを思うなら、もう想いを伝えてしまったほうがいいのかもしれないと、悩みに悩んだ俺は、せめて南が中学を卒業するまでは待とうと決めた。 そんな俺の決意をわかっているかのように南のストレート連投は止まらず、卒業するまでの間修行のような日々が続いて。 「最近南が可愛くて仕方ない」 「悠太は生まれた瞬間から可愛い」 「いや、たぶんお前が見てきた南と俺から見た南は可愛いの種類が違う」 「悠太はコイツのどこに惚れたんだ」 「それは俺も思う」 「普通に腹立つ」 大也とはお互いどことなく敵対視していたのに、あの日以来から本音で話せる唯一の友人…というよりかは悪友になった。 最初は大也も南に説得していたみたいだけど、あまりにも意思が固くて折れたらしい。 それからというもの、会うたびに睨まれたり舌打ちしてきたり俺に対する態度は完全にヤカラだったけど、それが本気じゃないことはわかっていたから接しやすくて。 「娘を送り出す親の気持ちがわかる気がする」 「……癪だけど、南の兄弟が大也でよかったって思うよ」 「ケンカ売ってんの?」 なんだかんだ認めてくれるんだな、というのは口に出さずに、大也の腹パンを受け止めた。

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