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朱の桜 3

八雲さんに好きだ好きだと伝え続けてきた。 想いが実ればいいと思ってたから。 オレが好きって伝えて、八雲さんから「俺も好きだよ」とか「いいよ」って返事をもらえる想像しかしてこなかったから、逆告白のことなんか全然頭になかった。 しかもいざ告白されると、嬉しいより疑う気持ちが先に出てきた。 そのことに、自分で自分に驚く。 八雲さんの手は相変わらず冷えていて、ちょっと震えていて、心臓がきゅって締め付けられる。 「本当に、いいの…?」 恐る恐る聞けば、八雲さんは眉をさげてふにゃっと笑った。 オレはその笑顔に、今日2度目の心臓を射抜かれる。 「俺が南と付き合いたいんだ」 死ぬまでに好きな人から言われたいセリフTOP3を、なんの違和感もなく言えちゃう八雲さん。 その言葉が、脳内で山びこのよに反芻されて響いた。 か、かっこいい…。 優しいし、気遣いも完璧で、本当にいい男って八雲さんのことだと本気で思う。 「うー…」 「あはは、なんで泣くんだよ」 「だって…八雲さんがかっこよくて、好きが止まらない…」 「えー?はは…なにそれ、ほんと可愛い…」 八雲さんが覗き込むように屈んで、オレの顔を覗き込む。 すっと手を伸ばしてきて、親指で優しく涙を拭ってくれた。 「好きぃ…」 「俺も好きだよ」 「本当に、オレ、一生八雲さんのことだけ好き」 「うん。嬉しい」 「嫌だって言われても、八雲さんのこと離しませんから」 「いいよ、俺もずっと南の隣にいたい」 「う…う、浮気とかしたら…嫌いになりますからね!?」 「それは困かな。…南ってけっこうワガママなんだな」 「そうですよ、ワガママなんですよ、いいんですか?」 「いいよ、その方が燃える」 何を言っても100点満点の返しをされてしまって、なぜかオレが説得される立場になっていることに気がついた。 顔だけじゃなくて口も性格もいいイケメンって怖い…。 「ふ……」 「ふ?」 「不束者ですが…よろしくお願いします…」 「ん…一生大事にする」 顔が、耳が、首が、指先が燃えるように暑い。 まさか本当に想いが通じ合えるとは思ってなくて、その先のことを全然考えてなかった。 これからは、恋人同士として八雲さんと接していくんだ。 ……恋人同士って、何をするんだろう? 「南?どうかした?」 「え、いや…こ、恋人同士って、何をするのかなと…」 声に出して恋人同士って言うのがまだ慣れなくて恥ずかしい。 八雲さんの顔をまともに見れないし、ガキっぽいって思われたかも。 「――南は、俺と何をしたい?」 さっきまで優しい声をしていたのに、急にちょっとトーンが落ちた八雲さん。 びっくりして顔を上げれば、いじわるそうな顔で笑っていた。 そのギャップにどぎまぎしつつ、何をしたいか頭を回転させて考える。 「2人で出かけたりとか…?」 「もうしてるじゃん」 「手つないだり」 「多くはないけど、それもしたことあるよね」 「だ、抱きついたり」 「お構いなしに抱きついてくるじゃん」 「〜っ、じゃあ!キスでもしてくれるんですか!?」 ヤケになってそう言った瞬間、八雲さんの目が細められてにやりと笑う。 「なるほどね、南は俺とキスをしたいんだ」 「ちがっ…今のは勢いというかですね」 「じゃあしたくないの?」 「そ、それも違いますけどぉ…!」 八雲さんに振り回されて、恥ずかしくて涙が出てきそうになる。 たまに八雲さんってSだなって思う時はあったけど、ここまでドSになるとは思わなかった…。 「俺は南としたいよ、キス」 「っ!」 「だめ?」 ず、ずるい!本当にずるい! オレのことを気遣って、八雲さんのほうからお願いしてきてくれる。ずるい、かっこいい。 断る理由なんて、あるはずない。 オレが小さく頷くと、八雲さんは「ありがと」と言って、アゴに手を添えられて――いわゆるアゴくいをされる。 近づいてくる八雲さんの表情は嬉しそうにも切なそうにも見えて、ああ、オレと同じなのかなと思った。 鼻と鼻がくっつきそうなぐらい近づいたところで、八雲さんがぴたっと動きを止める。 呼吸が重なり合って、心臓が人生で一番うるさく鳴る。 「目、とじなくていいの?」 その小声はちょっと掠れていて、えろくて、背中がゾクゾクして、地面に脚が着いている感覚がなくなって。 「とじます……」 「ん」 ゆっくり瞳を閉じて、3秒後。 ファーストキスは優しくて、柔らかくて、だけどすごく熱くて、ちっとも甘酸っぱくなかった。

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