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なにはさておき 3
八雲さんに告白された後、家に来てって呼ばれたから、オレはてっきりそういうつもりなんだと思って早とちりをしてしまった。
八雲さんに宥められたというか、今日はそういうつもりはないとはっきり言われて安心半分、恥ずかしいがもう半分。
オレのことを大切にしてくれてるんだなって伝わったのはすごく嬉しかったんだけど、やっぱり男の身体だと無理なのかもしれない…とネガティブな気持ちにもなって。
最初は八雲さんの隣にいられるだけで満足だったのに、もっともっとってどんどん欲深くなっていく自分にびっくりする。
「はあ……」
湯船に肩までしっかり浸かって、意味もなく天井を眺めてみる。
今さらながら、八雲さんに窘められた恥ずかしさが大きくなってきた。
「はっず」
実は今日初めて、八雲さんの家に泊まる。
シャンプーを手に取ったとき、八雲さんと同じ香りがすることに感動してしまって、何度も何度も嗅いだ。
いつもと違う香りのシャンプーに、いつもと違うタオルを使うと泊まりにきたんだなって感じられて、修学旅行みたいにちょっとわくわくして。
だけど頭の中は、八雲さんとえろいことをする想像ばかり。
ちょっとはそういう雰囲気にならないかな、と期待が膨らんでは萎んでの繰り返し。
八雲さんからされるのを待つよりかは、いっそのこと自分から誘ってみるか…といろいろ考えていたら、珍しく逆上せた。
ほんと、何やってるんだろう…。
ぐわんぐわんする頭を壁に手をつきながら体を支えて、拭いて、着替えて、八雲さんの隣に座った。
「おかえり。何か飲む?」
「あ、お水、自分でやります」
自分でやろうと思って立ち上がったら、ぐらっと体のバランスを保てなくなってその場に座り込む。
だめだ、逆上せたの久しぶりで、なんか息苦しい…。
「どうした?逆上せた?」
「少し…」
「少しじゃないだろ」
「ほんとに、ちょっと立ちくらみしただけです」
「……とりあえず水飲んで、窓開けるから少し涼んでろ」
あ、八雲さん、オレのこと呆れちゃったかも…。
眉間がぴくっと少し動いたのをばっちり見てしまった。
違うのに、本当になんでもないのに。
このまま今夜は休んでろって言われるのが怖くて、胸が苦しくなってくる。
オレは水を渡しに来てくれた八雲さんの首に腕を回して、気がついたときにはちょっと強引に引き寄せていた。
八雲さんは目を見開いて驚いてるけど、オレも反射的に体が動いちゃったことに驚く。
「なに?どうした?」
「あ…」
「こんなことしてないで早く――」
「したいんです!」
早く休めと言われるのがわかってしまったオレは、その続きの言葉を遮った。
今、それだけは言われたくなかった。
「――意味、わかって言ってるんだよな?」
「わかってます。ワガママだなって、自分でもそう思います」
「南、さっきも言ったけど俺は」
「確かめたいんです」
引き気味だった八雲さんの体から力が抜けていく。
傍を離れないことがわかったから、八雲さんの首から腕をそっと離した。
「確かめたいって、なにを?」
少し声のトーンが落ちたこの感じ、八雲さんが真面目に俺の話を聞こうとしてるんだってもうわかる。
そういう八雲さんが好きなんだ。
「わかってるんです、本当に…オレのことを大切にしてくれてるって」
「うん」
「でも…その…女の子じゃないから、オレ」
「南、」
「最後までじゃなくていいから……」
「はあー……」
大きくて長いため息をひとつ。
あ、やっぱり言わなきゃよかったかもと情けなく後悔。
「そこまで言うなら、わかった」
「え…?」
「俺が南のことどれだけ好きか、わからせてあげる」
「待って、八雲さん!?」
八雲さんはオレのことをお姫様抱っこで持ち上げると、そのままベッドの上まで運ばれた。
「後悔すんなよ」
「し、しません」
「ふは…なまいき」
八雲さんとの距離が近くなって、オレはきゅっと目を閉じることしかできなかった。
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