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なにはさておき 4
「ん…ふっ、」
「だめだって、鼻で息しないと」
「わか、て…!」
「まあ、ヘタクソだと燃えるけど」
ベッドに運ばれたあと、流れるように押し倒され気がついたらキスの嵐だった。
いきなりディープキスというのをされて、頭がついていかないまま受け入れるしかなくて。
ほんのり感じるタバコの味だけが、かろうじてオレの意識を繋ぎとめている。
「はっ……」
「こら、逃げるな」
容赦なく舌で口の中をかき回されて、ねっとり舐められて、時には吸われたりして、全身からどんどん力が抜けていく。
“精気を吸われる”っていうけど、たぶんこんな感じなんだ、と頭の中でぼんやり思った。
「ふぁ、やく、さ…やくもさ…んっ」
「なに?」
「も、むり…!」
「んー…もうちょっと」
もうちょっとってどれぐらい!?
慣れないキスに呼吸が追いつかなくて、目にじんわりと涙が溜まる。
さすがに苦しくなって八雲さんの胸を叩くと、最後にちゅるっと唇を吸われてやっと離れた。
「全然足りないんだけど」
「まっ、だって、いきが…!」
「鼻でしろって」
「しま、した」
「できてなかったけど」
「だって、こんなの初めてだし、八雲さんかっこいいし、もうごちゃごちゃで…」
「……」
「あ、でも、きもちかったですよ…?」
八雲さんが固まっちゃって、また何かやらかしたのかと思って慌てて言葉を紡ぐ。
眉間にぐっと力を入れたあと、また長いため息をつきながらがっくりと項垂れてちゃって。
「そんなに嫌でした…?」
「南が無自覚に煽ってくるからだろ…」
「え…八雲さん興奮してくれてるんですか」
「恋人とキスして興奮しないわけないだろ」
「んっ」
八雲さんとのキスでゆるく反応しているそこに、ごりっと熱くなったところを服の上から押し当てられる。
八雲のそこは服越しでもわかるぐらいに熱くて、体温が一気にぐんと上がった。
「これから南のこと触るけど、いい?」
「き、きかないでください…」
「お前から煽ってきたんだろ?」
自分では煽ったつもりは全然ないのに、八雲さんのスイッチを押してしまっていたらしい。
オレの上にかぶさって見下ろしてくる八雲さんの表情は、うっすら笑ってるように見えた。
Sっぽいなとは思っていたけど、これはもしかしたらもしかするかもしれない…。
「絶対、1回しか言いませんよ…」
「南がはっきり言ってくれればな」
「初めてだから……優しくさわってほしい、です」
「ふーん、優しくしてほしいんだ?」
「な、なんですか、だめですか」
「いやー…俺好みに育てられるなと思って」
「は、」
もしかしてじゃない、確信した。
八雲さんは超のつくドSだ。
普段あんなに優しくて紳士でいかにも好青年ですって顔してるのに、ベッドの上だとこうなっちゃうんだ…。
今までもこんな感じだったのかな、と一瞬考えてしまった。
割り切ったつもりだったのに、オレって最低…。
「南」
「はい?」
「今は俺のことだけ見てて」
八雲さんの真っ直ぐな瞳と言葉は、麻薬のようにオレのなかに入り込んで溶けていった。
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