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【番外編】やくもせんせいの日常
「はい、みんなおはようございます」
俺が挨拶をすれば「おはようございます!」と、幼い子ども特有の語尾を伸ばした元気な挨拶が返ってくる。
俺の受け持つクラスの園児たちはなかなか個性的な子が多くて、毎日子どもと戦っていると言っても過言ではない。
「やくもせんせーおかしたべていい?」
「ダメに決まってるだろ」
「じゃあかえってもいい?」
「お前は今日は八雲先生と手を繋いで過ごさないといけません」
「なんで!」
「すぐイタズラするからだろ」
「オニ!アクマ!ひとでなし!このアマ!」
「どこでそんな言葉覚えてきたんだ…」
なにかと手を焼くのがこいつ、矢吹という甘いお菓子が好きな子どもだ。
持ってくるなっていう言いつけを守らずお菓子を持ちこんだ回数は数えきれない。
他力本願な節も見受けられ、何かあればすぐ俺を呼んではやってやってを繰り返す。その都度手を貸してしまう俺もまだまだ甘い。
「すばるもせんせーのことオニっておもうだろー!?」
「うーん、せんせーはにんげんだよ」
「そういうことじゃねーし!」
すばるは、矢吹と仲がいい立花っていう子だ。
矢吹に比べたら遥かにいい子ではあるものの、少々人見知りの気がある。入園当初は矢吹以外の子どもたちとなかなか馴染めず、最近やっと少しずつ話せるようになってきた。
「鬼に怒られたくなかったらあっちで遊んでこい」
「いつかオニたいじしてやる!」
先週読み聞かせた桃太郎の話しがよほど気に入ったい。人差し指で鬼の角を作れば、鬼退治してやると言い残してぴゅーっと走って行ってしまう。
「かいがバカでごめんなさい」
「今日のお昼ごはん、矢吹に内緒で先生のイチゴひとつあげよう」
「えっ、いいの?」
「内緒にできるって約束できる?」
「できる!」
矢吹に立花がいて心底よかったと内心で泣きながら、指切りげんまんをした。
そんな様子をじっと見ていたのが、南という一番おとなしい子どもで。
俺が南に向かってにっこり笑うと、恥ずかしがって物陰に隠れてしまうのがいじらしい。
「隠れると、先生ちょっと寂しいんだけど」
「ご、ごめんなさい…」
「南は何して遊びたい?」
「えっと……」
南は俯いて服の裾をいじり始めた。
この仕草は、だいたい言いたいことがあるんだけど恥ずかしくて言えない時。最近やっとわかってきた癖だ。
「先生も一緒に遊ぶから、なんでも言ってみ?」
「なんでもいいの…?」
「もちろん」
「あのね…やくもせんせいと、おててつなぎたい…」
「え?手?」
「さっき、やぶきくんに…」
「ああ、1日手を繋ぐぞってやつか」
「ん…」
「南は先生と手を繋ぐだけでいいの?」
「……だめ?」
遠慮がちに上目遣いされて、何かが心臓に刺さって通り抜けた。
正気になれ、相手は片手で数えられる幼児だぞ…。
その日、南と手を繋いで過ごした結果、俺はいつか逮捕されるかもしれないと本気で思った。
▽4日1日
エイプリルフールネタ
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