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真夜中ラヴァーズ 2
矢吹と立花に誘われた飲みで、まああいつらにうまく飲まされ酔わされ口を滑らせ、素面だったら絶対に言わないようなことを言ってしまった。
言うまでもなく、南とのことだ。
酒は強いほうだと自負していたのに、常に南の話をされて惚けてしまったんだと思う。
気が付いたらだいぶ酔いが回っていて、考えるよりも先にしゃべってしまう状態になっていた。
付き合うまでじれったかっただとか、やっと落ち着いただとか、南のどういうところが好きなのかとか、その他たくさんの質問の嵐で。
だんだんと質問の内容も深いものになっていくのは目に見えていた。
「いつ南に手を出すんですか?」
「ちょっと……南に手を出すって言い方やめてくんない?」
「じゃあいつ抱いてあげるんですか?」
「………」
「あれ、黙っちゃった」
「八雲さん、ここまでしゃべっておいて黙るのはナシだから」
「うるさいな……好きなんだから抱きたいに決まってるだろ」
と、自棄になって言ってしまったが最後、矢吹は前のめりになり、立花には口笛を吹かれた。
「南に立花さんって呼ばれて、やっぱなんでもないですっていうやり取りもう10回ぐらいしてるんですけど」
「俺には話しかけてこないけど、何か言いたそうな視線はめちゃめちゃ感じてる」
「八雲さんも気が付いてますよね?」
「は?当たり前だろ」
「南のことになると過激派にもなるんすね」
いつも一言余計な矢吹の脚をテーブルの下で軽く蹴る。
「南にも言ったけどアイツはまだ16歳で多感な年頃だし、急ぐ必要もないし、負担にならないように少しずつやらせてあげたいんだよ」
「でも南はやりたがってるんすよね?」
「そうだけど、少しずつできることを増やしていけばいいだろ」
「ふーん?俺は八雲さんのほうが逃げてるように感じちゃいましたけど」
「あ、嫌われるのが怖いんでしょ」
立花は意外と鋭いところを突いてくることが多い。
ズバっと切り込んで、そこから話を広げていくのが矢吹だ。
さすが幼馴染というか、息の合った巧みな会話にこの時ばかりは言い返すことができず。
情けないことに、やけ酒をして自滅。
落ち着くまで公園のベンチで休んで、立花と別れたあとは矢吹に自宅まで支えてもらい、今度は南にソファまで支えてもらうという痴態を晒してしまい。
南が水を持ってくると言ってキッチンのほうへ行った後、ふとチャックが開いているスクールバッグが目に留まった。
人の荷物を覗き見る趣味は断じてない。誓ってもいい。
でもこの時はまだ酔いが回っている状態で正常な思考ができず、意味もなくじっと見てしまった。
そこで見つけてしまったのが、半分ほど使われたローションボトル。
一気に酔いが覚めた感じがした。
南がこのローションをどう使ってるかなんて、聞かなくてもわかる。
ひとりでしてる姿を想像してしまい、身体が熱を持ち始めた。
「待って待って、八雲さん見ないで」
「……ねえ、これ」
「あー、もう、なんで見ちゃったんですか…」
「見たんじゃなくて、見えたんだけど」
「最悪……」
「それ、使いかけだったんだけど」
「……」
「けっこう減ってたし」
「……」
「もしかして、自分で慣らしてた?」
相当恥ずかしかったのか、黙ったまま南の目に少し涙がたまり始めていた。
大好きな恋人のいじらしさに心臓がぎゅっと締め付けられ、今すぐめちゃくちゃに抱いて甘やかしたい衝動に襲われる。
立花の言う通り、南の年齢を理由に逃げていたのかもしれない。
いくら好きだとはいえ、男同士のセックスだ。途中でやっぱり無理と言われるのが怖かったんだなと今になって気がついた。
南に向かって「おいで」と言うと、躊躇いつつぎこちない歩き方がペンギンみたいで、愛しさが溢れて思わず笑ってしまった。
「……帰りたい」
「なんで?」
「恥ずかしすぎて」
「俺は今晩帰したくないんだけど」
「それってどういう―ー」
南の言葉を途中で遮って、唇に軽いキス。
びっくりして目を見開く姿も可愛くて、南の全部を受け入れようと決めた。
「自分で慣らして痛くなかった?」
「え……痛いというより、ちょっと怖かった、です」
「うーん、だよなぁ…」
「あ、あの…?」
「正直、そういうの全部俺がやってあげたかったんだけど」
「えっと…?」
「怖い思いをさせてごめん。それと、ありがとう」
何を言いたいのかよくわかってないのか、瞳をぱちぱち瞬かせて俺の言葉を待っているみたいだ。
「南が嫌じゃなかったら俺に全部預けてほしいんだけど、いい?」
「八雲さん、それって……」
「今夜、南を抱きたい」
ゆでだこみたいに顔を真っ赤にさせた南は、小さく頷いた。
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