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病的糖度
俺が禁煙を始めてから10日が経った。
10日間まったくタバコを吸っていない。よくここまで我慢できたと自分を誉めたいが、今深刻なニコチン不足で軽く死にかけている。
深刻な南不足の次は深刻なニコチン不足。
俺そろそろ禿げそう。
とにかく今ニコチンが足りなくて、発狂寸前のところまできている。
本当にもう、頭がおかしくなりそうだ。
このイライラを弓道で心を落ち着かせようと、俺は通っている弓道場に来ていた。
道着に着替え、正座してニコチン煩悩を取り払おうとする。
あータバコ吸いたい。
「あ、いたいた八雲さん」
道着を着た南がひょっこり顔を出す。
偶然だけど、南もこの弓道教室に通っている。
週に数回、学校終わりにここの弓道場で待ち合わせて練習して、汗をかいてから一緒に帰るというのがいつものパターン。
ここの弓道場はいろんな学校の中間地点にあり、駅からのアクセスも悪くない。
学校終わりや仕事帰りに顔を出して雑談したり、少し汗をかきにきたりとなかなか自由がきく。
そのわりに、大会があるとなかなか好成績を残すからすごいと思う。
こっちに歩いてきた南が、俺の正面まで来て正座をする。
背筋を伸ばし、膝の上に拳をおいている姿はキレイだ。
「あー、南。テストどうだった?」
「まあまあです。空欄はなかったから少なくとも去年よりかはマシ」
「ちゃんと付きっきりで教えたからな」
「ところで八雲さん、噂になってますよ」
「え、なんで?なんかしたっけ」
「肌ツヤツヤなのに顔が怖くて殺気だってるって」
「………」
「タバコ吸ってないからですよね?すいません、オレが吸うなってうるさいから……」
「……ごめん南」
周りにもヘビースモーカーと言われておきながら、いきなりタバコを吸うなといのはさすがに無理があった。
吸わないぶん南補給すればいいとか思ってたけど、やっぱり関係なかった。
「おーさすが南。あんなに殺気だってた八雲さんがあっという間に穏やかに」
「あ、矢吹さん」
へらへらと笑いながら入ってきたのは矢吹海(やぶきかい)。
俺と同じ大学に通っている、ひとつ下の後輩。
本能に忠実で常にギリギリを生きている残念なイケメン。この言葉は矢吹のためにあるものだと本気で思ってる。
ちなみに、ここの弓道教室に通っている奴らは俺と南が恋仲であることは知っている。
「矢吹さぁ、また南に変なこと吹き込んでないよな」
矢吹のことをジト目で睨むと、我関せずとでもいうようにわっはっはと笑う。
矢吹がこの笑い方をするときは、大抵ごまかしたり確信犯のときだ。
「いやいや八雲さん。語弊のある言い方やめてもらっていいですかね」
「語弊もクソもねぇよ、俺の南をたぶらかさないでくれる?」
「よかったな南、今日も愛されてて。俺そろそろ胸焼け起こしそう」
「いつも愛されてるし矢吹さんはいい加減糖分を控えないとまじで糖尿病になりますよ」
「俺が糖尿病になったとしたら8割はどっかのバカップルさんのせいだから」
「今すぐ糖尿病にさせてやろうか?」
俺は南の道着の襟を掴んで引き寄せて、いつでもキスできるように顔を近づけた。
でもいつもこんなやり取りをしてるから、南も矢吹も本気じゃないってわかってる。
その証拠に南は全然慌ててないし、矢吹も気にする素振りがない。
「あ、結構です。つか八雲さん、そろそろ飲み行こう」
「おー行くか。課題も片付いたしいつでもいいよ」
「じゃあ銅(あかがね)さんと立花にも聞いて、決まったら連絡ってことで」
「ん。場所は俺が探しておくから」
易くて美味いところでと言いながら、矢吹は弓道場を後にした。
「あの人何しに来たんですかね」
「俺たちの冷やかしと酒のためだろうな」
「やっぱバカだな矢吹さん」
「南はああなっちゃダメだから」
「オレには八雲さんがいるのに」
ぷくーっと頬を膨らませる南がかわいくてちゅっとキスをすると「もっと…」とねだってくるものだから、思わず押し倒して矢吹を糖尿病にさせるようなキスをした。
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