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南大也
「……あのさぁ」
「待ってしゃべらないでタバコ吸ってて」
「八雲めんどくせぇ」
ぷはーと煙を俺の顔面に向かって吐き出すのは南大也(だいや)。俺と同じ大学に通ってる、同い年の友人。で、南の兄貴。
絶賛ニコチン不足が続いてる俺は、講義のない空きコマに大也を喫煙所に誘い、こうしてタバコの煙を頂いてる。
「人の弟に副煙はダメだって言っておきながら自分はいいのかよ」
「南はダメに決まってんだろ」
「はいはいそーですね。つかもう俺のやるから吸え」
「大也のタバコは強いから無理」
大也が愛煙しているタバコはタール数が多くて、禁煙中の俺には刺激が強すぎる。
少ないタバコだったら吸ってたのに、と内心毒づいた。
「いやその強い副煙を喜んで吸ってるの誰だよ…」
「ちょっとだけだろ」
「お前タバコと悠太のことになるとダメ人間になるよな」
「褒め言葉として受け取っておく」
大也は俺の頭をポカっと軽く小突いて、スマホを操作しだす。
「そういえばさー、この前悠太が匍匐前進しながら帰ってきたんだけど」
「……」
「八雲を見ればツヤツヤしてるし」
「……」
「矢吹から聞いたんだけど、神聖な弓道場でキスしてたらしいな」
「待って」
「節度はしっかりしろよこのバカップル」
「耳が痛い」
「公然わいせつで逮捕されることだけはやめてくれよ」
「胸に刻む」
大也は最後にタバコの煙を俺に向かって吐き出すと、肩に腕をまわされ次の教室に連行された。
― おまけ ―
八雲さんの部屋に来てテレビを観てたら、神妙な面持ちで話しかけてきた。
「……南」
「はい」
「俺捕まらないように気をつけるから」
「はい……え?」
「南は俺が守る」
「何事?」
「2人で頑張ろうな」
「ちょっと!八雲さん!?」
このあと、オレが誤解を解くのに1時間かかった。
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