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放課後ユーフォリア 1
帰りのホームルームが終わり、まだざわめきの残る教室の中でオレはメッセージアプリを開いた。
今日は八雲さんの授業は3限までで、帰る時間を合わせることができる日。
八雲さんのほうが終わるの少し早いから、八雲さんは行きつけの喫茶店か図書館か弓道場で時間を潰してることが多い。
今日はどこにいるのかメッセージを送って確認したんだけど、まだその返信がきてなかった。
いつもなら連絡がきてるのに、今日はどうしたんだろう?
学校で待つかちょっと悩んだけど、とりあえずどこにでも行きやすい弓道場に向かうことにしよう。
席から立ち上がってカバンを持とうとしてら、窓際に女子がたまってることに気がついた。
「なんで女子集まってんの?」
オレは後ろの席に座ってる悪友の柳準太(やなぎじゅんた)に聞いてみた。
中学1年のときからずっとクラスが一緒で、もう隣にいるのが当たり前になってる友だち。
「あー、なんか校門にイケメンがいるとかで女子が騒いでる」
「女子ってほんとそういうの好きだよな」
オレには関係ないと思って早々に教室を出ようとしたとき、女子の会話が耳に飛び込んできた。
「ねぇねぇ!さっきからこっち見てない?」
「やっぱ?ヤバイかっこいい~」
「大学生かな?私服とかすごいセンスいい」
……まさかね。
いやまさかね!
オレの八雲さんセンサーが何故かすごい反応してる。
窓際まで駆け寄って校門を見ると、うん。いたわ。八雲さんがいた。
オレに気づいた八雲さんが、おいでおいでと手招きする。
もう八雲さんが注目されすぎていてもたってもいられなくなったオレは、先生に注意されながら全速力で校門に向かった。
「おつかれ南」
「やくもっ、さっ…はあっ、はあっ、なにっ…」
「……南えろい」
真顔で言ってくる八雲さんに「バカ!」て言うと、ごめんごめんって頭を撫でながら謝ってくれる。
息を整えてから、改めてなんでここにいるのか聞き直した。
「南をびっくりさせようと思って」
「すごいびっくりしました」
「このあと時間あるだろ?」
「まあ…八雲さんの家に行こうとしてたぐらいには」
「ご褒美のデートしようか」
「え!これからですか?」
「そう。南と予定たてようと思ってたんだけど、こういうのもサプライズ感あっていいなって」
「八雲さん……オレ今ドキドキしてる」
「それはよかった。それに、1回やってみたくて」
「なにを?」
八雲さんの顔が近づいてくる。
こんな学校の公衆の面前ですごく恥ずかしい。
「制服着た南と放課後デート」
少し掠れてて、でも艶っぽい声音を耳元で囁かれて、心臓がドクンと跳ねた。
囁かれた右耳が熱くて、燃えてるんじゃないかと心配になる。
八雲さんを見ると、もう、ゆるいタレ目とキリッとした凛々しい眉がかっこよくて。
オレ絶対、今少女漫画の主人公みたいなときめいた顔してる…。
最近は八雲さんのこと絶倫だとしか思ってなかったけど、こうして年上の余裕というかかっこよさを見せられると弱い。八雲さんに溺れていく一方だ。
あー、もう。八雲さんのこと好きすぎて意味わかんない。
「ほんと…八雲さんってずるい…」
「知ってる」
「バカ……好き」
「俺も好きだよ、南」
ダメだ今日の八雲さんは一段とかっこいい。
自分の心臓の音しか聞こえないなか、八雲さんの半歩後ろについて学校を後にした。
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