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本田八雲の追想 1

俺が南と出会ったのは、高校1年の暑い暑い夏の暮れ時。 身の回りの環境が変わった時期で、当時の俺はかなり辟易していた。 しかも日々続く猛暑日にさらに嫌気がさし、なかでもその日は最高潮に機嫌が悪かった。 憂さ晴らしにそこら辺のヤツを殴りたい衝動が抑えられなくて、ガラの悪い連中が跋扈(ばっこ)する路地裏に向かった。 そうしたら、小学生ぐらいの小さい男の子が数人の男に絡まれてるのを見つけて。 俺は男の子を助けようという思いより、殴れる口実ができる男共がいることに喜びを感じていた。 手を出してみればなんてことない、ただの屑。 頭が悪ければ強いわけでもない。 俺が一番嫌いな、単細胞系のバカ。 まったく手応えを得られず、次の獲物を探しに行こうかななんて考えてたら、男の子が泣いてることに気がついた。 さすがに泣いているガキを放っておくほど人間を捨ててなかった俺は、手を引っ張って人通りの多い表まで連れて行ってあげた。 男の子はけっきょく泣き止むことはなかった。 子どものあやし方なんてわかるはずもなく、男なら泣くなとか、適当なことを言ってその場を離れた。 今思えば、もう少しまともなことを言ってあげればよかったと少し後悔。 その後いろんな路地裏をほっつき歩いていたけど、いるのは屑や雑魚ばかり。 ストレス発散のつもりで来たのに、むしろストレスフルになった俺はイライラしながら帰った。 それから季節はふたつ変わって、街中がピンクに色づき始めた春。 俺は高校2年生になった。 堅苦しくてつまらない校長の話を聞き、新しいクラスでの気怠い自己紹介をし、俺の顔だけを見て寄ってくる女子を雑にあしらい、当時唯一落ち着ける場所だった弓道場に向かった。 中に入ると見慣れない少年が1人いて、新しい生徒が入って来たんだなと知った。 ぶかぶかで真新しい学ランを着ているから、中学1年生だろう。 どうせ話すこともないだろうし、俺には関係ないなと思っていたところに。 その少年は俺のことを見つけるなり、顔を輝かせてこちらに駆け寄ってきた。 「あ、あの!」 「……なに」 俺は明らかに嫌そうな返事をしたけど、この少年はそんな俺に物怖じせず、穢れを知らないような瞳を輝かせて話しかけてくる。 「あのときは、ありがとうございました!」 「はあ……」 「オレ、南悠太っていいます!」 「あ、そう」 「お兄さんの名前教えて下さい!」 「……本田八雲、だけど」 お構い無しにマシンガン自己紹介してくるこの南とかいう少年に勢いで負けた俺は、らしくないと思いながら重い口を開いて名乗ったのだった。

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