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南大也の不運

今日は講義がない日。 大也と一緒に俺の部屋で文献をまとめていた俺は、少し息抜きにとタバコに火を付けた。 「あ?お前禁煙したんじゃなかったの」 「いやもう一言で言うなら無理だった」 「だろうな。八雲みたいなヘビースモーカーがいきなりスパッとやめられるワケがない」 「少し軽いのにして、本数を減らすところから始めようと思って」 「それ何ミリ?」 「6ミリ」 「あ、うん。お前にしては頑張ってる」 「俺もそう思う」 「お前まじで禁煙できんの?」 「……神のみぞ知る」 「ダメじゃん」 大也は呆れたように笑いながら、自分のタバコに火をつけて吸い始めた。 2人でぷかぷかさせながら、室内には紙の捲る音が続く。 俺と大也は心理学を専攻している。 自分で研究テーマを決めて、過去にどのような実験がなされているのか、図書館や論文サイトを漁り先行研究を探す。 似たような文献があったら、まあいろいろ参考にして質問項目を作るのだがここでは割愛。 2人ともどれほど無言でいたんだろう。集中していたら、家のインターホンが鳴った。 時計を見るとまだ南の学校が終わる時間ではなかったけど、まあ間違いなく南だろう。 まだ半分残っているタバコの火を消して、南を迎え入れる。 「いらっしゃい。今日早いじゃん」 「お邪魔しまーす。三面期間だからしばらく午前授業」 「三者面談か、懐かしい」 南が靴を脱いで俺に近づくと、小さな鼻をくんくんときかせた。 本当に子犬みたいで可愛い。見てるだけで癒される。 「もしかしてタバコ変えました?」 「嘘、わかるの?」 「うーん…なんかちょっと、いつもと違う感じが…」 「南に隠し事できないって確信した」 「当たり前じゃないですか!やましいことでオレに隠し事するのはダメですよ」 やましいこと以外の隠し事はいつまでも待つ、ということだろうな。 やっぱり南は気づいてたみたいだ。 俺が話さないようにしてたし、南も幼いながらにそれを察してくれていたのだと思うと、ありがたさと申し訳なさの感情がわき上がる。 「……オレ、八雲さんにそんな顔させるつもりで言ったんじゃない」 「うん……ごめん」 「もう、なんで謝るんですか!」 「あはは、怒るなって」 南と短いキスをして、部屋の中に招き入れる。 「大也はタバコの火消そうな」 「わーまったくこの彼氏さんは」 「八雲さん大丈夫だよこれぐらい」 「ダメ。塵も積もればなんとやら」 「でもさ八雲さん、兄ちゃん家でも吸ってるし」 「待って悠太、めんどくさくなるから待って」 「大也お前南の前で吸ってんの?」 「ほらー!絶対こうなんじゃん!悠太帰ったら覚えてろよ!」 「オレが楽しみにしてたプリンを食べたのが悪い」 「ちょっと、俺を兄弟喧嘩に巻き込むのはやめて」 けっきょく話の折がつかなくなってどういう訳かスマブラで決着をつける流れとなり、ゲーム音痴の大也がなぜか禁煙するということで話が収まった。 「死にたい」 「言い出しっぺは大也だろ」 「むり」 「一緒に頑張ろうな」 「キツイ」 「とりあえずやれるところまでやろう。俺もいるし」 「……今少しときめいた」 「死にたい」 「それは失礼」

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