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体育祭とメガネ 1
6月最初の土曜日。
今日はオレの学校の体育祭だ。
放課後練習や朝練がここ最近毎日あったから、八雲さんに会えてない。
会おうと思えば会えたけど、人より出場数が多くて練習量もクレイジー。終わる頃にはヘトヘトで、申し訳ないけど八雲さんに会う気力と体力がない。
八雲さんは気にするなって言ってくれるけど、気にするに決まってる。
このことを柳に相談してみたけど、返ってきた答えは
『だってどうせ土日とかには会えてるんだろ?』
『そうだけど…』
『じゃあ問題なくね?』
だった。
そうじゃないんだ…そうじゃないんだよ…
まあ地獄のような練習の日々も昨日で終わったし、この体育祭が終わったらふつうに会えるんだけど。
去年の体育祭もそうだったけど、八雲さんはもちろん銅さんたちも応援に来てくれている。
わざわざみんなで来てくれるなんて仲良すぎ。
ちなみにオレの家族は来ていない。八雲さんとか銅さんのことを信頼してるから、わざわざ昨日の夜に電話して悠太をお願いしますって言ってたぐらい。
ぼーっとしてたらいつの間にか開会式が終わってた。
1種目目の100メートル走に出なきゃいけない。待機列に並ぶ前に、八雲さんのところに会いに行くとメガネをかけていた。
「八雲さんのメガネ初めて見た」
「最近視力が悪くなってきて。メガネも南の勇姿を見るために作ったばっか」
八雲さんのメガネは上部にフレームがないアンダーリム。ゆるいたれ目が遮られることなく見えてるし、一層知的に見えて好き。
「どう?」
「かっこいい似合ってる…キスしたい…」
「あ、すいませんさすがにやめてもらえます?」
ちょっといい雰囲気になったと思ったら、矢吹さんがオレと八雲さんの間に入ってきた。
矢吹さんだって女性関係にだらしないくせに、ちょいちょい見せる常識人なところが納得いかない。
文句を言おうとしたら、出場者の召集がアナウンスでかかった。
もっとメガネ八雲さんを拝みたかったけど、さすがに行かなきゃまずい。
挨拶してその場を離れてちょっと歩いたら、後ろから八雲さんに呼び止められた。
どうしたんですか?って言おうとして振り返ったら、目の前に八雲さんの顔。
それはもう本当に一瞬で。コンマ1秒の世界で。
八雲さんにキスされたんだと認識したときには、八雲さんは「頑張れ」って言葉を残して戻って行った。
その後、100メートル走で1位を獲得し、さらに全学年で最速のタイムを叩き出したのは言うまでもない。
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