25 / 238

体育祭とメガネ 5

南を見送って少ししてから、借り物競争が始まった。 見てる感じだと、至って普通のお題みたいだ。 ハンカチや人気キャラクターのグッズを、ゴールに持って行ってるのがなんとか見える。 メガネを作っておいてよかった。 なかったら何も見えてなかったかも。 ちなみに矢吹と立花は本当に南が来ないと判断したのか、あろうことかナンパしに行ってる。 公共の場で何してるんだって言い返そうとしたけど、さっきまでナニしてた俺に言えたことではなかったから黙認。 右京さんは今日ずっと父親のようにカメラを構えてるから、あとで現像したものを貰おうと思う。 「どうやら南は次ですね」 「カメラは任せました」 「アルバム新しいの買わないとですね」 「右京さんもう俺らの父親じゃないですか」 遠くで開始の合図の乾いたピストル音が響いた。 南が頭ひとつ抜きでて、お題のあるところまで1着だ。 箱の中に腕を入れて、紙切れを1枚引いた。 広げて中を確認した南は、すぐに走り出すかと思いきや何故か固まってしまってる。 その間に、後から来た他の生徒たちに先を越される。 「おや?どうしたんでしょう」 「さあ…難しいのでも引いたんですかね」 少し固まってた南は意を決したように走り出す。 こっちに一直線に走ってくるから、手を振ってみたら南が顔をボッと赤くさせた。 南の反応を見ると、どうやら本当に俺に向かって走って来てるみたいだ。 「八雲さん!」 「は、はいなんでしょう」 南の一世一代の告白みたいな勢いに、思わず敬語になってしまう。 隣で右京さんが「おお…」とか言いながらちゃんとシャッターを切ってる。 全国のお父さんの鑑です右京さん。 「あの、あの!オレのこと抱いてください!」 「南ったら…白昼堂々誘うようになって」 「え!?ち、違います!そっちじゃない!」 「あはは、ごめん冗談だっ、て!」 ぽこぽこ恥ずかしがる南を横抱き…俗にいうお姫様抱っこする。 「え?え!?」 「舌噛むなよ」 「ま、待って八雲さん、なんで…」 俺の腕の中で南があわあわと混乱してる。 南は焦ったり緊張したりすると、日本語が滅茶苦茶になるところがある。 ド直球に「抱いて」ってきたけど、たぶん俺が南のこと抱えてゴールすればいいんだと思う。 「このまま南を1番にゴールさせればいいんだろ?」 「そ、そうだけど…!」 「はい、じゃあ南はもう喋っちゃだめ。本当に舌噛むよ」 南の弱い耳元で囁いてやれば、顔を真っ赤にさせて俺の胸元に顔を埋める。 両腕もしっかり首に回して、落ちないようにぎゅっとしてきた。 大衆の面前に晒されて恥ずかしがってる。可愛い。 どんなお題かわからないけど、南が俺のところに来てくれたんだから頑張らないと。 前に走ってる人がいるけど、相手の速さと距離を考えれば追い抜けそう。 バレないように南の髪にキスを落とすと、今までで一番本気を出して走った。

ともだちにシェアしよう!