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雨の日の君
まだ梅雨の明けない6月。
雨が続き頭にカビが生えそうだと思ってベッドから起き上がると、久しぶりに部屋の中に日が差していた。
このお天気を逃してはならないと思った俺は、溜まっていた洗濯物や部屋の片づけを始める。
「しかし南の私物が増えたな」
付き合う前から家に遊びに来ていたため、南のコップや部屋着といった物があちこちにある。
自分の家に南の物があると、なんとも言えない幸福感。
インテリアとかにこだわりとかなかったけど、少しでも南から良く思われたいから気にするようになった。
恋は人を変えるってよく聞くけど、本当にそうだと思う。
午前中いっぱい片づけの時間に使い、昼食にチャーハンを作ってテレビを観ながら食べた。
午後は何しようか考えながらソファに寝転がっていたら、いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。雨の音で目が覚めた。
「う、わ!洗濯物!」
干しっぱなしにしていた洗濯物を慌てて取り込む。
幸い濡れてはいなかったから、そのまま畳んで仕舞った。
南は傘を持っているのかなって思ったとき、そういえば玄関に見慣れない青い傘があったことを思い出した。
俺は黒い傘を使ってるから、南のだ。
この前うちに来たとき忘れて行ったんだ。
俺はスマホを持つと、南にメッセージを送信する。
『傘持ってないなら学校まで迎えに行くけど』
『え、でも今日は家に帰りますよ…?』
『いいよこれぐらい。何時に行けばいい?』
『ありがとうございます!オレ今日は日直だから、16時半ぐらいで』
『わかった』
夕飯の仕込みを簡単に終わらせて、南のいる学校に向かった。
南から絶対に目立たないでくださいねって強く言われたから、傘でさりげなく顔を隠すように待つ。
でに通り過ぎる大半の人が「もしかして…」とか言うもんだから、バレてる。これバレてるわごめん南。
校門で待つこと数分。
俺の名前を呼ぶ南の声が聞こえた。
クラスメイトだろうか、女子の傘に入れてもらってる。
俺の近くまで来た南は、小走りで女子の傘から俺の傘の下に入って来た。
「八雲さんありがとう」
「うん。お疲れ南」
「あ、の。コイツ、今日オレと一緒で日直だっただけで、何にもないですから」
「せっかく傘入れてあげたのに、なによその言い方ー」
「いやだって勘違いされたくないし、実際まじで何もないし」
「あーはいはい。お邪魔虫はさっさと帰れってことね?」
「は?そこまで言ってないじゃん」
「でも思ってるってことよね」
「まあ多少」
「まったくバカ正直なんだから。私も邪魔する気はないし、先に帰るわ」
「おー」
南と女の子は、手を軽く振りながら別れの挨拶をする。
うーん、同級生のこの感じ青春っぽくていいな。
「……」
「ねえ八雲さん」
「待って」
「もしかしてさ」
「言わないで」
「嫉妬してくれた?」
「言うなって…」
同級生の女の子に嫉妬するなんて恥ずかしい。
赤い顔がバレないように、少しそっぽを向く。
「わ、恥ずかしがってる八雲さん可愛い」
「勘弁して…」
「でも嬉しい。いつもオレばっかり冷や冷やさせられてたから」
「南の気持ちがよくわかった」
「これでおあいこですね」
なんて言いながらにっこり笑うから、ちょっとモヤモヤしてた気持ちがどこかへ行ってしまった。
南のいろんな表情を見るたびに、可愛いなっていつも思う。
「ねえ八雲さん」
南が俺の首に両手をかけて、珍しくおねだりしてきた。
「なに?」
「わかるでしょ」
「何してくれるの?」
「嫉妬してちょっと落ち込んでる八雲さんを慰めてあげる」
「ん。じゃあお願いしようかな」
南の伸長に合わせて、少し膝を折る。
少し踵をあげた南は、俺の頬にちゅっと口づけをして顔を離した。
「元気でました?」
「もう少しかな」
そう言って、南が何かしゃべる前に唇を奪う。
「っ!?…ふっ、まっ、て…やあぁ…」
舌先でチロチロと絡めさせて、最後に下唇を堪能して唇を離した。
「俺を慰めるならこれぐらいしてほしいかな」
「……バカ」
南は真っ赤になった顔を見せないように、俺の斜め後ろにくっついて隠れる。
頭をぽんぽんと撫でてやり、後ろに南の体温を感じながらゆっくりと歩き出したのだった。
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