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シガレットケース
俺は今、自分史上めちゃくちゃ頭を悩ませている。
何を隠そう、八雲さんの誕生日プレゼントについてだ。
毎年誕生日プレゼントはあげてたけど、今回は付き合ってから初めての誕生日だ。
恋人に贈るプレゼントは、それはもう気合いが必要だと思う。
でも何をあげればいいんだろう?
資金に関しては、短期バイトをするから問題はないんだけど…。
いろんな人に相談しても、しっくりくるものはなかった。
頭がパンクする前にもう潔く直接本人に聞いてしまおうと、俺は八雲さんの家に来ていた。
「え、プレゼント?南から貰えるならなんでもいい…っていうか祝ってくれるだけで嬉しいから強いて言うなら南」
「も、もう!オレならいくらでもあげるし、あげてるつもりなんですが!」
「お前ほんと誘ったり煽ったりするのうまくなったよね」
「そういうつもりではなかったです」
「これだから天然って怖い」
「もープレゼントほんと何がいいんですか?」
さりげなくオレの腰に腕を絡めてくる八雲さんを引き剥がす。
くっついてきてくれるのは嬉しいけど、このまま八雲さんのペースに流されそう。
「そうだなー。じゃあ、シガレットケースがいい」
「……それ遠回しに禁煙解除してくれってことじゃないですよね」
「勘繰りすぎだよ」
八雲さんが女子悩殺スマイルをするってことは、そういうことなんだな。
やっぱりオレのワガママでいきなり禁煙しろって言ったのまずかったかな…。でも健康でいてほしいし。
「わかりました。シガレットケースですね」
「本当に買わなくていいのに」
「八雲さん、オレだって男ですよ」
「あー、ふはっ。そうだな、楽しみにしてるよ」
くしゃっとわらった八雲さんは、オレの頭をわしわし撫でる。
気持ちよくて嬉しくて、喉が鳴りそう。
「資金はどうするの?」
「短期バイトをしようと思って」
「………」
「え、なんで黙るんですか。ダメ?」
「ダメじゃないけど少し心配かな」
「八雲さん過保護」
「でも嫌いじゃないだろ?」
「大好きです」
「ほんと素直でいい子だな」
「八雲さんにだけですよ」
自分でも引くぐらい、八雲さんになら素直になれる。
オレがこんなに聞き分けのいい性格だったなんて知らなかった。
今日はそういう雰囲気にならなくて、八雲さんがオレに寄りかかってうとうとし始めた。
八雲さんのサラサラしてる髪をゆっくり撫でて、どんなデザインのシガレットケースを買おうかわくわくさせながら瞼を閉じた。
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