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スウィーティー・バースデー 8

矢吹さんは甘いものが大好きだ。 だから、そういったスイーツのお店に詳しい。 今まで食べてきたすべての甘味物を、あの人は『矢吹ノート』にまとめているんだけど、その話はまた今度。 とにかく。 オレはそんなスイーツ大好き人間の矢吹さんに、八雲さんさんのために不本意ながら頭を下げた。八雲さんの誕生日ケーキのために。 すっごいからかわれたけど。ほんっとに殴りたくなったけど。 八雲さんのためと思って耐えた。あの時のオレを褒めちぎりたい。 で、矢吹さんに教えてもらったケーキ屋さんで注文したわけなんだけど…オレは矢吹さんの甘いもの好きを舐めていたんだ。 だってまさか通いつめた結果オーナーと仲良くなって、オーダーメイドケーキを頼めるだなんて。 八雲さんは甘いものはそんなに好きじゃないから、おかげですっごい助かった…。 矢吹さんのことをこんなに崇めることは、後にも先にもこの時だけだけど。 そんな甘さ控えめのチョコレートケーキを、2人で取り分けてテーブルに並べる。 「美味しそうだね」 「不本意だけど、矢吹さんのお墨付きのケーキ屋ですよ」 「あはは。そっか、矢吹のお墨付きなら美味しいだろうな」 2人で手を合わせて、まず八雲さんからケーキを食べる。 いくら矢吹さんお墨付きとはいえ、大好きな人に贈るケーキだから緊張する。 八雲さんがケーキを一口大に切って、口に運ぶ。 その動作さえも優雅で、つい見とれてしまった。 食べるだけなのに…八雲さんほんとかっこいい。 「……美味しい」 「ほ、本当ですか!?」 「甘くなくて、カカオの苦みがあって、すごく俺好み」 「よかった…」 八雲さんの笑顔を見て、ほんとに安心した。 ありがとう矢吹さん。 後でお礼の言葉でも言ってあげよう。 「ほら、南も。あーんして?」 「えっ!や、八雲さん!?」 「ほーら、口開けて」 はー…。そんな端正な顔で見つめられて、しかもあーんしてくれるとか恥ずかしすぎて死ぬ。 せめてもの抵抗で、目を瞑って小さく口を開けると、八雲さんの笑い声が聞こえた。 「もー!なんで笑うんですか!」 「あはは、ごめんごめん。恥ずかしがる南が可愛くて」 くしゃっと笑う八雲さんに胸がキュンってした。 八雲のこんな笑顔を見られるなら、笑われてもいいかなとか思っちゃう。 気を取り直してもう1回、ちゃんと口を開ける。 でもやっぱり恥ずかしいから、目は閉じたまんま。 このままで少し待ってたら、口の中に甘苦い味が広がった。 「美味しい!八雲さん、これ美味しい!」 「ほんと南は美味しそうに食べるな」 「あ…ご、ごめんなさい…八雲さんの誕生日なのに」 「もうなんで謝るかな。南のいろんな表情を見られるだけで、俺は幸せなのに」 「うー…八雲さんかっこいい好き…」 「甘えたな南も好きだよ。ほら、口元にクリーム付いてるから。こっち向いて、取ってあげる」 え!クリーム!口元に! 恥ずかしい…子どもみたいじゃんオレ…。 でも八雲さんが取ってくれるっていうから、それに甘える。 目を閉じてると、口元に生暖かい感触がした。 びっくりして目を開けると、ぺろりと舌舐めずりしてる八雲さんがいた。 「っ!?」 「ご馳走さま」 「むり…八雲さんむり…かっこいい恥ずかしいえろい…」 絵に描いたようなイケメンっぷりを間近で見せられて、もう恥ずかしくてしょうがない。 本当にいるんだこんはイケメン…。 いや八雲さんがいけねーんだよなのは知ってたけど、真のイケメンみたいな。改めて思った。 「これぐらいで恥ずかしがって…可愛いけど、大丈夫?」 「えっと、大丈夫……じゃない気が……」 八雲さんの意味深な質問と笑顔に、オレの本能がヤバイって警告音を響かせてる。 何回もこのパターンに遭遇してるけど、馴れる日は来るんだろうか。 「そろそろ南に“おもてなし”してもらおうかな」 そう言うと、八雲さんはケーキに手を伸ばしてクリームを親指で掬うと、オレの口元に何故か付けられる。 「あの、八雲さん…?」 グイっと腰を引かれて、身体を密着してくる。 この雰囲気は、その、えろいことをする時のアレなんだけど、ちょっと待ってほしいおもてなしって何!? 1人でドキドキして焦ってるオレをよそに、八雲さんの顔が近づいてきて付けられたクリームをねっとり舐められる。 またすぐ離れると思ったらそんなことなくて、そのままクリームを付けられたところを執拗にキスし始めた、 「!?んっ、やく…ふぅ…」 まだそこにクリームが残ってるかのように、掬われるようなキスを続ける。 口元だから、唇のキスではなくて。 なんだか物足りなくなって、八雲さんの首に腕を回す。腰が自然と動いてるのもわかった。 「ふふ…ほんと、すぐ素直になって可愛い」 「八雲さん…ほし、い…」 「いいよ、いっぱいあげる。でもその前に――」 八雲さんはもったいぶるように一呼吸置いてから、とんでもない言葉を言い放った。 「甘い南を食べさせて?生クリームプレイ、しようか」

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