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スキップから始まる

終業式。 1学期の終わりを祝う式で、今日の学校が終われば晴れて夏休みになる。 夏休みが始まるから、今日の教室はいつもより騒がしくてみんな浮き足だってた。 もちろんオレもその1人で。 大学生の夏休みはまだだけど、この夏は八雲さんといろんなところに遊びに行く約束をしてる。 楽しみで楽しみで、八雲さんといろんなことをしてる想像をしてたら頭をパコって叩かれた。 「お前ニヤけすぎ」 顔を上げたら、柳が呆れ顔をしてオレを見下ろしてた。 手には丸めた教科書があるから、それで叩かれたっぽい。 「ニヤけてないし」 「無自覚かよ…女子から鏡借りる?」 「え、借りる借りる。八雲さんのこと考えてるときの顔ちょっと見てみたい」 「バカップルいい加減にしろよ~~」 すごいデカいため息をつかれながら、柳は前の席に座る。 オレそんなに顔に出てるつもりなかったんだけど、柳が言うなら間違いないんだろうな。気をつけなきゃ。 「で?バカップルさんは夏休みどこに行くんだよ」 「聞きたい?聞きたいなら教えてあげる仕方ないなぁ!」 「あ、やっぱりいいです」 「言わせてよ」 「お前八雲さんに夢中になりすぎてオレとの約束忘れるなよ…」 「だからあの時は悪かったって…」 実は以前、柳と遊ぶ約束をしていた翌日に八雲さんとも会う約束をしていて。 本当に柳には悪いけど、八雲さんとの約束が楽しみすぎて柳のことをすっかり忘れたことがあった。 すぐに思い出して大きな遅刻はしなかったけど、柳にめっちゃ怒られた。 そりゃそうだ。 だって約束してたのに、他の人とのほうた楽しみですっぽかすとか…いくら八雲さんだからって人として悪いことをした。 「じょーだんだって。すっげー反省してたのわかってるし、オレも前日に確認しなかったの悪かったし」 「柳…お前って優しかったんだな…」 「シバくぞ」 柳の目がマジモードになったから、慌てて冗談だよって言う。 のんびりしてそうに見えて、けっこう短気なんだよなー。 「つかさ、夏休みに浮かれるのはいいけど」 バカ話してたのに、柳が急に声のトーンを落として真面目な顔つきになる。 「な、なんだよ」 「このあと通知表返されるの忘れてないよな?」 「………」 「まあ勉強頑張ってたしテストもそんなに悪くなかったし、大丈夫じゃね?」 「……………」 「おーい、南?」 「ダメだ八雲さんに見せられない…」 「え」 「や、八雲さんにがっかりされたらどうしよう!?」 「そこ親じゃないの?」 「だって勉強教えてもらったり会うの我慢したり…どう考えても八雲さんでしょ」 「そこまで八雲さんバカだと思ってなかったわ…」 「誉め言葉として受け取っておく」 なんて柳と話してたら、担任の先生が教室に戻って来た。 通知表配るからなーっていう先生の言葉に、お決まりのみんなの嫌そうな声が教室に響く。 オレはもう声をあげる余裕すらなくて、体温が低くなっていってる感じがする。 あ行の人から順番に名前を呼んでく先生が、悪魔にしか見えなくなってきた。 ヤバイむりオレ倒れそう。 「南ー」 「………」 「おーい返事ぐらいしろや」 「………」 「白目剥いたまんまこっち来るなよ怖いだろ…」 「………」 「もうダメだ。正気に戻るまでみんなそっとしといてやれよ~」 まじで半分意識を飛ばしてたらしい。 先生の声なんかまったく聞こえてなくて、オレが気がついたときには通知表を握りしめながら保健室のベッドで寝ていた。 中身を恐る恐る見て、オレはスキップで八雲さんちに向かったのだった。

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