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夏祭りに影とりんご飴 2
「ほう、八雲くん浴衣似合うじゃないか」
「あはは、ありがとうございます」
あれこれデジャヴ?
まったく同じやり取りをついさっき聞いたような。
てかオレの両親は八雲さんのこと好きすぎだから!
たしかにイケメンだし聡明だし礼儀正しいけど!
まさか…八雲さんを好きになったのも、この両親のDNAがあったから…?
やめよう。
この先はよくない。
ひとりで頭を抱えたり唸ったりしてたから、相当変な人になってた自覚がある。
何故なら父さんがめっちゃドン引きしてたから。
「悠太お前…何してるんだ…」
「なんかいろいろ戦ってた」
「意味がわからん…誰に似たんだ」
アンタらだよ!って大声で叫びたかったけど、これまたなんとか堪えた。
もういい加減早く祭りに行きたい…。
「せっかくだし、ふたり共庭に出なさい。写真撮ってあげよう」
「いいわね!ちょっと待ってね、髪と浴衣整えるから」
実はオレの父さんはプロのカメラマンで、母さんはスタイリストだったりする。
だから母さんは浴衣の着付けもお茶の子さいさい。
父さんもすぐ写真に収めたがるから、うちには尋常じゃないほどのアルバムがある。
もちろんそのアルバムのなかに八雲さんもたくさんいて、八雲さんに会いたいなって思ったときはアルバムを見たりしてる。
母さんに手際よく髪型と浴衣を直してもらい、皆で庭に出る。
早く祭りに行きたい一心のオレとは反対に、八雲さんはニコニコしてて楽しそう。
「久しぶりに写真撮ってもらう気がするなぁ」
たしかに、最近は八雲さんちに行きっぱなしだったから撮ってもらうの久しぶりかも…。
そう思ったら、オレもなんだか嬉しくなってきて。
むしろ両親が八雲さんのこと好きでよかった、堂々としてられるってポジティブに考えることにしよう。
「ほら、撮るぞー」
この時、オレと八雲さんは忘れてたんだ。
久しぶりの写真ってことに浮かれすぎて、両親がプロだってことを。
「つ、疲れた……」
「相変わらずすごかったね」
がっくり項垂れてるオレとは違って、八雲さんは変わらずにこにこしてて余裕そう。
まあ、あれだけ絶倫だったらこれぐらい朝飯前なのかな…。
父さんと母さんは暴れるだけ暴れて、さっき鼻歌しながら家に戻って行った。
家の地下にある暗室にしばらく籠るのが目に見えてる。
一方オレたちは家の縁側に腰かけて、さっき母さんが持ってきてくれた冷たい麦茶を飲みながら休んでる。
「もう動けないー」
「お祭りやめとく?」
「行く!行きます!」
「ちょっと休んでから行こうか。早めに来て正解だったな」
時計を見るとまだおやつの時間。
1時間半ぐらい撮影してたのかな…思ったより時間は経ってなかったみたいで安心した。
「んー…八雲さん、オレ少し寝たいかも」
「いいよ、時間になったら起こしてあげる」
「ちょっとだけ…」
横になるために後ろに倒れようとしたら、八雲さんがぽんぽんと腿を叩く。
これは…八雲さんの膝枕!?
「い、いいんですか…?」
「俺がしてあげたいの」
「それじゃあ…お言葉に甘えて」
いそいそと体をずらして、八雲さんの膝上に頭が乗るように位置を調整する。
八雲さんは痩せ型のうえに筋肉質だから気持ちいいってわけじゃないけど、物理的じゃなくて精神的に幸福感に包まれる。
「おやすみ、南」
「ん……」
優しい手つきで頭を撫でられて、すぐに眠気が襲ってきた。
風鈴の音色と八雲さんの体温を感じながら、オレはすぐ眠りについた。
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