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夏祭りに影とりんご飴 4
お祭り会場に近づくにつれて、人が多くなってきた。
県境を跨いで遠方から来る人もけっこういるみたいで、まだメインの神輿とかはやってないのに結構な人だ。
オレは隣を歩く八雲さんをちらりと盗み見る。
人混みは好きじゃないって言ってるけど、さりげなく八雲さんのがちょっとだけ前に出てオレを庇ってくれてる。
八雲さんの腕の後ろにぴったりくっついてるかんじ。
もう、なんでこんなに優しくしてくれるんだろう。
オレは正直、他人からこんなに優しくしてくれたり愛をくれたりとか、そういうのに慣れてない。
だからどうしていいかわからなくて、八雲さんのこと大好きだし全力で受け入れちゃってる。
自分に力をつけたくて弓道教室に通い始めたけど、けっきょく八雲さんに甘えっぱなしで成長してる気がしない…性格は明るくなったはずなんだけどなぁ。
「ねえ八雲さん」
「なに?」
「オレ八雲さんに甘えすぎたりしてない…?」
き、聞いてしまった。気になりすぎて。
ウザかったかも…うわーもう言った直後に後悔するとかない。
ほらー!八雲さんなんかすっごい驚いた顔してこっち見てるからー!
その視線が痛い。
「あー、なんでもないです!今のナシ!」
沈黙に耐え切れなくて、思わず前言撤回。
笑顔をつくって、八雲さんの注意を祭りの方に向けさせようとする。
八雲さんの腕を引っ張ったら逆に引かれて、人混みから外れて閑散としている近くの神社に連れて行かれる。
有無を言わせない雰囲気に、怒らせてしまったかもしれないと血の気が引いてくのがわかる。
何度か呼びかけようとしたけど、返事してくれないことが怖くてなかなか言えない。
そのまま神社に裏に連れて来られ、止まったかと思えば壁ドンならぬ木ドンをされる。
びっくりして思わず顔を上げると、八雲さんは切なそうな表情をしていた。
その切なそうにさらにびっくりして、言葉が何も出てこなくて。
てっきり怒られると思ってたから、なんて声をかければいいのか見当もつかない。
八雲さんの手がオレの頬に添えられて、優しく包み込まれる。
「俺は…好きで南のこと甘やかしてる」
「……」
真剣な八雲さんに声が出てこなくて、その瞳に吸い込まれそうになる。
「南が俺に甘えすぎてマイナスな気持ちになる必要なんてない」
「で、も…ウザいとか…」
「そんなことない。この甘やかしを南が素直に受け入れられてないんだとしたら……悲しいし、それに気づけなかった自分が許せない」
心臓がうるさい。
八雲さんからの好意は素直に受け止めてた反面、オレなんかが貰っていいのかってずっと悩んでた。
他人から好かれたことがないオレが、本当に八雲さんを独り占めしていいのかって。
もちろん家族は別。
でも小さい頃は両親の仕事が忙しくて、家にいないときも少なくなかった。
そういう意味では、兄貴はよくオレに構ってくれてたと思う。
オレの想いをぽろぽろと八雲さんにこぼしてみたら、キツく抱きしめられた。
「今まで南が貰えてたはずのぶんの愛情を、俺が全部あげる」
「すごい時間かかりそう」
「前にも言ったろ?俺の全部を南にあげるって」
「……うん」
覚えてる。忘れるわけない。
だって本当に嬉しかったから。
八雲さんの想いに応えるように、肩に手を回して抱きしめ返す。
「口開けて…舌も少し出して」
「ん……」
八雲さんからのキスだ。
肩に回してた腕を首に移して、グイってオレの方に寄せて早くってねだる。
「俺が南にすることは、全部愛がこもってるから」
もう唇がくっつきそうな距離で囁かれて、全身が甘く痺れる。
出してた舌に力が入らなくなって、端から見たら絶対だらしない。
そんなだらしない舌に、八雲さんのアツい舌が絡んできた。
唇はつけないで、しばらく舌先で熱を確かめるように。
ちろちろと舌先だけで舐め合っているかと思えば、根元から掬い上げるように舐められたりと舌使いに翻弄される。
「んっ…はぁ…」
オレの舌先には八雲さんと2人分の唾液が溜まっていって、飲み込むことができずに口端から垂れていく。
八雲さんはそれを恥ずかし気もなく舐めとって、南可愛いって言いながら深い口づけをしてきた。
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