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【番外編】矢吹海のついてない日

こんにちは。 禁煙シリーズのイケメン担当の矢吹海です。 あ、今なんか約1名からものすごいブーイング飛んできたのでさっさと本題に入ります。 またかって感じなんだけど、この前まじでついてない日があったんだ。 まじ俺なんかした?ってレベルでガチなやつだったから聞いてほしい。 まあ、本当に申し訳ないけどあのバカップルが原因なんだわ。 またかよって感じだけど。 で、後から知ったけど裏でバカップル以外も動いてたんだ。 泣きそう。 まじ聞いて。 まず、その日の俺は鬼ピンポンで目が覚めた。 快眠をジャマされてめっちゃイライラしながら出たら、幼馴染の立花昴がいた。 「は?こんな朝早くから何してんだよ…」 「10時は一般的に朝早いとは言わないからセーフ!」 「俺にとって11時までは早朝なんですぅ」 「せっかくあの有名なケーキ持ってきてあげたのにそんなこと言っていいの?」 って言って後ろに隠してた袋をチラ見せしてくる。 その袋のロゴは俺が見間違えるはずがない。 最近オープンしたばかりの店のロゴだ。 本当はオープン初日に行きたかったんだけど、補講とかいう末恐ろしい時間のせいで行けなかったんだ。 いや、正確には売り切れた。 そんなケーキを、昴が買ってきただと…? 誕生日ってわけでもないし、何かお祝い事でもあったっけ。 「ほら、このケーキ食べたいだろ?早く上がらせろー!」 「わーったわーった」 昴が騒ぎ始める前に家の中に入れる。 まじでなんで昴がケーキ買ってきてくれたのか謎なんですけど、悲しいことに貰えるものは貰っておく主義だから、喜んで頂いたわけで。 にやにや笑っている昴にまったく気がつかなかった。 で、不思議なことに大学に行ったら大也さんまでもがケーキを買ってきてくれていた。 俺、正直大也さんとは八雲さんほど絡んでるわけじゃないから、まじまじもうなんで?って感じ。 さすがの俺も戸惑ったけど、大也さんが「これを機にもっと矢吹と仲良くなりたくて」って言われたら、信じちゃうじゃん?普通に嬉しいじゃん? 「なんだ、大也からもケーキ貰ってたんだ」 大也さんからのケーキを美味い美味いって食べてたら、なんとなんとあの八雲さんがケーキを作ってきてくださったみたいで。 「大也お前変なこと言ってないだろうな?」 「八雲はまじで俺のこと信用してなさすぎな」 「まあ、矢吹の次ぐらいには」 「八雲さんそうやってさりげなく俺をディスるのうまくなりましたね」 「ありがとう」 「全然褒めてないんですわ」 相変わらず手厳しい八雲さんに、そろそろ泣きたくなってくる。 俺そんなにハート強くないんだからね。 「なに、この俺が作ったケーキいらないの?」 「いります八雲さん超優しい」 どうやらこのケーキは南のために作った誕生日用の余りらしい。 南の余りね。ここ重要。 でも八雲さん料理うまいし、素直にありがたいから喜んで胃袋に収める。 もう今日3人からケーキを貰って、俺の気分は最高潮になったんだ。 大学での移動なんかほぼスキップで、昴から「他人のフリさせて」って言われるぐらい舞い上がってた。 俺の胃袋が甘いって幸せの悲鳴を上げていて、なんていい日なんだってめっちゃ思ってた。 そして俺は考えたんだ。 もし弓道場に言ったら、南やガネさんからもケーキが貰えるんじゃないかって。 だから俺は講義が終わったあと、これまたスキップで弓道場まで向かった。 「こんにちは矢吹。近所の方からお土産でお饅頭を頂いたので、一服どうです?」 キタコレ俺の時代。 ケーキじゃなかったけど、和菓子も大好き。 もう甘ければ何でもいい。 出されたのはもみじの形をした饅頭。 どうやら広島のお土産らしい。 いつもケーキ屋とかカフェしか甘味巡りしてなかったから、なるほど地方の特産品に手を出してもいいかもしれない。 ガネさんからのもみじ饅頭を食べ終わった俺は、残るは南だけだなとかバカなことを考えてた。 まさかガネさんに「ケーキが貰えると思って来ました」なんて言えるはずがなく(確実に殺される)、南が来るまで軽く練習することにした。 更衣室に近づくにつれ、誰かの話し声とくぐもった声、それから聞き覚えのありすぎるリップ音が聞こえてきた。 スキップをやめてゆっくり更衣室に近づくと、中には入らないで聞き耳をたてる。 「ちゅ…ん…やく、ぁ…」 「ん…かわい…もう少し口あけて?」 「ぅ、ふ…んん…」 いやもうダメだこれ完全に2人の世界。 たしかに南からも甘いものくれるかなって思ってたけど、こういう甘さじゃないんだわ。 外に俺がいることを知ってるのか知らないのか定かじゃないけど、とにかくバカップルのキスが今まで一番激しいものに変わりはない。 扉1枚隔ててるのにリップ音デカすぎだから。 はやくやまないかなと思って少し待ってたけど、やむどころかキスは濃厚さと激しさを増すばかりだ。 「あっん!」 「すごい勃ってる、ここ…」 「だめっ、やくもさ…ァッ…」 「すごい、いつもより敏感…そんなにイイ?」 はいダメ帰ろう。 今までバカップルの濡れ場に何度か遭遇してるけど、これは今までで一番ひどい。 う…なんか今日食べてきたケーキの甘さが急に響いてきた…胸焼けヤバイ…。 俺はガネさんに体調が悪くなったから帰ると伝え、ふらふらになりながらお家に帰った。 で、翌日に聞かされた話なんだけど、どうやら昨日が世界糖尿病デーだったらしい。 あのバカップルが俺に甘いものいっぱい与えて糖尿病にさせようとか訳のわからないことを提案したみたいで、みんなグルになっていた…ということらしい。 天国だと思っていたものがまさかの地獄へのロードだったと知った俺は、しばらく人間不信に陥ったのだった。 ▽ 11月14日:世界糖尿病デー 甘党な矢吹にみんなでいたずら

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