70 / 238
【番外編】いるだけで
「お前らいつ結婚すんの?」
「は?」
突拍子もなく、矢吹は言い出した。
今、俺の部屋に課題をやりに来てる矢吹と(もちろん一度突っぱねた)いつも通りな南がいる。
矢吹がちゃんと課題に集中できるよう南は宿題を、俺は予習をしていた。
紙とペンの音しか響かなかった空間に、突然「いつ結婚すんの」と効かれたらああなってしまうのは必然だと思う。
「なに、お前は俺らに結婚してほしいの?」
小一時間ほどみんな集中して机に向かっていたし、いい息抜きになるかと思って矢吹に構ってやる。
「矢吹さんご祝儀いっぱい包んで」
「最近南の俺に対する扱いが雑になってる気がする」
「よかったな矢吹、気のせいじゃないよ」
「2人して畳み掛けてくるのやめて!?」
矢吹がわざとらしく泣き真似をする。
正直けっこう面倒くさい。
南も同じ事を思ったみたいで、矢吹を呆れたように見てる。
「2人に子どもがいたら絶対逞しく育つわ…」
「俺と南の子どもなら絶対可愛いだろうな」
南は言うまでもなく可愛い。子猫みたいなつり目が特に好き。
目にいっぱい涙を溜めてクシャっとなった顔が堪らない。
俺はまあ顔は悪くないし、そこそこイケメンだと思う。
周りの女子からは甘い顔ってよく言われる。
「八雲さん親バカになりそう」
「女の子だったらうんと甘やかすかも」
なんて出来るはずのない未来の子どもを想像して。
南を盗み見ればにっこり笑ってるけど、複雑な気持ちになってるのがわかる。
このまま矢吹と話を続けてたら、絶対拗ねるだろうな。
「そういえばさ、立花が今夜合コンするかもって言ってたけど」
「え!?まじで!?」
「人数集まらなくて悩んでたけど…矢吹聞いてみれば?」
「そうするわ!人数ぐらいサクっと集めるのに昴のヤツ!」
バタバタと慌ただしく荷物をまとめて、台風のように去って行った。
「……」
さてと。
俺は何か言いたそうにしてる南の相手をしなきゃ。
南の背後にまわって、後ろから抱き締めるように座る。
甘えるように俺に寄りかかってきたさら、あやすように頭を撫でた。
「……八雲さん、子ども欲しいの?」
やっぱり気にしてるな。
南に悪いことをしてしまった。
「ん…矢吹の話に乗っただけだよ」
安心させるように首筋にキスを落としながらしゃべれば、くすぐったそうにくすくす笑う。
「ふふっ。オレは…八雲さんがいれば、何もいらない」
俺の髪に顔を埋めて言うから、相当恥ずかしいんだろう。
南の鼓動が、背中からでも伝わってきて。
南が健気で可愛いから、後ろからぎゅっと強く抱き締める。
「俺も南しかいらないし、欲しくない」
そう言えば、南は黙って俺の腕に手を添えてきた。
しばらく無言の時間が続いき、南の鼓動を感じながらお互いの熱を感じ合って。
「八雲さん、ずっとオレの隣にいて…」
「ん…死んでも離さない」
ぽつりと言った南の言葉に、深い口づけをしながら応えた。
▽
11月22日:いい夫婦の日
形にこだわらない2人
ともだちにシェアしよう!