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恋人コンプレックス 2
大也と図書館に行った2日後。
南が旅行から帰ってくる日でもある今日、軽く掃除をしていたら大也から着信が入った。
「どうした?」
大也はよほどのことじゃないと、電話してこない。
かかってくるときは何か重要なことか、急ぎの用件と決まっている。
『あー…』
スマホ越しの大也の声は珍しく歯切れが悪い。
その雰囲気で、なんとなく何が起こったかわかってしまった。
「…知られた?」
『知られた』
「矢吹?」
『………そう』
立ちくらみがして、目頭を押さえる。
図書館で大也にキスを迫られたとき、とんでもない不運なことに矢吹が見ていたらしい。
分身してるうえに俺にGPSでもつけて追って来てるんじゃないかと思うほど、アイツはよくこういう場にいる。
1回本気でシメないといけないんじゃないかと考えて、首を横に振る。
『悠太に説明して謝ったけど………後は頼んだ』
「え?」
『恐らくもうすぐお前の家に着く』
「は?」
『親にはしばらく帰ってこないってもう言ってあるから』
「根回し」
『そういうことだからよろしく』
「あーもうわかったよ、俺も悪いしご機嫌とらなきゃな」
『まじ頼む』
そう言って大也は電話を切った。
「どうやってご機嫌とるかな…」
自分で言うのも恥ずかしいけど、こういうマジなのは初めてだ。
小さな喧嘩っていうか言い合いはあるけど、それは全部お互いのことが好きだからこそ起きたもので。
頭を悩ませてるうちに、玄関のインターホンが鳴った。
なんか…扉の向こうからドスのきいた雰囲気が漏れてる気がする。
やめよう、考えることを…。
意を決して、玄関の扉をゆっくり開けると――。
「八雲さん!!」
「ぐっ、いった!?」
開けた瞬間南にもの凄い勢いでタックルされて、支えきれずに後ろへキレイに倒れる。
なんとか頭は避けたけど、その代わりに背中への衝撃が強くて一瞬息ができなかった。
南はそんなのお構いなしに、俺の頬を両手でがっしり包んだかと思えば、息を吐き出したタイミングでキスをしてきた。
呼吸がままならない状態で口を封じられたから、しばらく息ができなくて弱い抵抗する。
本気で抵抗したら南にケガさせるし、そのへんしっかりと理性を保てていたと思う。
でも南はそんな抵抗に気がついてないぐらいキスに夢中だ。
というか、俺の唇しか本当に頭がなさそう。
このまま息できないと本当に生死に関わるから、自分を落ち着かせて鼻呼吸できるように整えた。
南は唇を押さえつけるだけのキスを続けてて、舌を動かす気配が一向にない。
生殺し…。
こんなのじゃあキスなんていわないし、大也のムダにうまかったキスの感触も早く忘れたい。
舌で唇を抉じ開けるのがムリそうだから、どこかで力を一瞬でいいから抜けさせなきゃいけない。
ちょっと考えて、服の下に手を忍ばせて脇腹を指でなぞる。
「ん、!」
周りがまったく見えてないくせに、身体はちゃんと反応するあたりがどうしようもなく可愛くて。
開発がすまくいってると思って、口元がニヤける。
そのおかげで南の身体から力が抜けて、そこを逃さずに舌を挿し込む。
「んぁ…」
ちょっと舌を絡めてやれば身体はよく覚えてるのか、すぐに蕩けた表情をして大人しくなる。
頬を掴むように挟んでた手は、次第に縋るように力が弱くなっていった。
俺がちょっとなにかをすれば、すぐとろんとした顔になって。
ほんと、可愛い。
従順なペットを愛でている気分になる。
こうやって弄ってやってたら南が少しずつ大人しくなって、ぽつりぽつりと胸の内を明かし始めた。
「なんで…兄ちゃんと」
「ほんと……ごめん」
「八雲さんオレにばっかり気をつけろって言うくせに」
「うん…反省してる」
「オレだって、八雲さんすごいかっこいいから…いつも不安で」
「うん…」
「ずっと一緒にいれないし、今回の旅行だってずっと八雲さんのこと考えてた」
「…俺も、ずっと南のこと考えてた」
「もう!だったら少しは抵抗してくださいよ!」
本当に南の言う通りで、返す言葉もない。
あの時の俺は本当に心の底からどうかしてたと思う。
抵抗できなかったのは、大也が唯一の友人で、付き合いの長さだけでみたら南より長くて。
俺が荒れてた頃、右京さんほどではないけどいろいろ迷惑をかけた。
もちろん南への好きとは全然違うし、大也とセックスできるかって言われたら絶対にムリだ。
「南…泣かないで」
「だって…」
南の泣き顔なんていくらでも見たことあるのに、今日の顔はいつもと違くて。
見ると、心臓を握り潰されそうになる。
なんて声をかければいいのかわからなくなって、これまでにないぐらい気持ちをたくさん乗せたキスを贈る。
「っ…ふぁ…」
「南…」
何も考えないで、ただ本能のままに贈るキス。
溢れそうな気持を全部乗せてるから、南は苦しいかもしれない。
でもそんなこと考えてる余裕なんかなくて、この時はただ南に受け取ってほしかった。
南は俺の想いに応えるかのように、手を首に回してくれて。
「っ、南…!」
ぎゅうぎゅうに溜まってた想いが、一瞬で溢れ返った。
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