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恋人コンプレックス 3
溢れ返った想いを南にぶつけようとしたとき、タイミングを見計らったようにスマホの着信が鳴った。
名前を確認すれば、大也からの電話で。
「チッ…」
せっかくのいいところを邪魔されて、殺意のこもった舌打ちをする。
不安そうに見てくる南を安心させるように、頭を撫でながら通話に出た。
「なんだよ」
『そんなに殺意のこもった“なんだよ”は初めてだわ』
「さっさと要件を言え」
『あ、もしかしてお邪魔しちゃった?』
笑いながらごめんと謝る大也にもう一度舌打ちをすれば、怖い怖いなんて軽口を叩いてやっと本題を口に出す。
『お前んちさ、まだ直ってないだろ?エアコン』
「で?」
『俺の両親さ、さっき旅行に行ったんだよね』
「……」
『俺もそこまで鬼じゃないわけ。わかる?』
「……何がほしいんだよ」
『話早くて助かるわー』
「白々しい…」
『あれ?そんなこと言って――』
「わかった!わかったから早く言え」
『俺に、敬語で“ありがとうございます”って言ってくれれば家貸すし、俺もダチの家に泊まらせてもらうけど』
「チッ…今から行くから待ってろ」
スマホの向こう側で大也が何かしゃべってたけど、そんなこと気にせずに通話を切った。
ほんと、俺の友だちなだけあっていい性格をしてる。
あの大也に敬語で話すなんて…絶対にしたくないけど、背に腹は変えられない。
「八雲さん?」
訝しそうに見てくる南に事情を説明すれば、ぽっと顔を赤くする。
「そ、それって…オレの部屋でするんですよね」
「まあ、人様のリビングでするわけにもいかないから」
「部屋の片づけするんで…リビングで待っててもらってもいいですか」
「それはもちろん」
俺は南の部屋が多少汚くてもあんまり気にしない。
むしろ素の南を見ることができるから、別に掃除なんてしなくてもいいんだけど。
俺も南がうちに来るときは軽く掃除とかしてるし、行くの久しぶりだし、キレイにしたくなるのはわかる。
「それじゃあ、お預け食らったけど行こうか」
「おっ、あっ……はい……」
相変わらず初心な反応をする南にキスをしてから、立ち上がって家を出た。
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